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(ふぅ…。なんだかマシになった気がする…)
「当たり前だろ。お前の場合、変化の維持だけじゃなくて、まだしばらくは存在の維持にも力を使わないといけないからな」
(そんなの知らないよ…)
「自分が使う術式の特性も知らないのかよ…」
(だって…)
「変化とかは持続力がいるよね~。反転はいらないけど」
「反転は、維持する必要が、ないじゃない」
「そうだけどさ」
「どう違うんだ?」
「変化は、自分を任意のものに変えることが出来るんだ。琥珀がわたしになったり、光になったり。全く別の存在になるんだから、姿を維持するために力がいるんだよ。でも、反転は、たとえばわたしなら黒龍になるんだけど、黒龍っていうのはわたし自身の裏側であって、変化とは逆で全く同じ存在だから、維持に力は必要ないんだ」
「でも、琥珀は響になっても琥珀でしょ?」
「うーん…。そうだよね…」
「おいおい…。ルウェ、こいつが出てくる前に、何か霧か靄みたいなものは見えなかったか?モヤモヤしたものだ」
「うん。なんか、黒いのが見えた」
「それが、響の姿を決定する情報だ。その情報を身に纏うことで外見を変えている。まあ、服みたいなものだ。服を変えれば、外見は変わるけど中身は変わらないだろ?つまりはそういうことだ」
「でも、服を着るのに力はいらないよ?」
「あー、まあそうだな。しかし、ヤーリェは鋭い質問をするな」
「ごめんなさい…」
「謝ることはないだろ。何にでも疑問を持つのはいいことだ」
「…うん」
「話を戻して。服ではたとえが悪かったな。さっき、ルウェが霧か靄みたいなのが見えたって言ってたよな?」
「うん」
「それを纏い続けるのには力がいるんだ。こう…一枚の布を身体にピッタリくっつけておくには、手で持っておく必要があるだろ?」
「巻き付ければいいんじゃないの?」
「慣れれば、そういうことも出来るけどな。こいつはまだまだ発展途上だ。存在の定着も、術式の扱いもな」
(はぁ…)
琥珀はひときわ大きくため息をつくと、モゾモゾと体勢を変える。
それをチラリと一瞬だけ見て、大和は鼻を鳴らす。
「さあ、なんか肩が凝ってきたな」
「そう?」
「ああ。難しい話は嫌いだ」
「難しいの?」
「俺にとってはな」
「ふぅん」
「光、何か面白い話はないのか?」
「えっ、わたし?」
「ああ」
「大和。そういうのを無茶振りって言うんだよ」
「そうか?」
「うん。それで、光。何かないの?」
「響まで…」
「いいじゃない。わたしが話すよりかは面白いでしょ」
「響にも何かあるのか?」
「そうだね…。光と翔の話とか」
「そ、そんな話はダメ!」
「なんだ?」
「ここはお風呂が混浴だからさぁ…」
「響!」
鈍い音がした。
次の瞬間には、響は頭を押さえていて。
「いつつ…。だから、光がさっさと話せばよかったのに…。殴られ損だよ…」
「俺は、さっきの話の続きが気になるけどな」
「気にならない!」
「ふむ。残念だ」
「ねぇ、光は何か面白いお話、あるの?」
「え?えっとね…」
光は腕を組んで考え始める。
…そんなに出てこないものなのかな。
「あ、そうだ。今日の夢」
「夢?」
「うん。今日、なんか、変な夢を、見たんだ」
「どんな?」
「真っ白な世界で、自分一人だけなんだ。どこまで行っても、真っ白な世界」
「自分も見たことあるんだぞ」
「えっ、そうなの?」
「わたしもあるよ~」
「うん、ぼくも」
「なんだ、みんな、見たことあるんだ」
「…光は白い世界。ルウェは白だったな。響なら黒、ヤーリェは蒼い世界だろ」
「なんで分かるの?」
「ルウェは前にカイトから聞いてるだろ。その世界は、自分の本質だ。光は金、、ルウェは光、響は水、ヤーリェは闇の世界を見てたんだ」
「本質…?じゃあ、途中で出てきた、黒い炎は…」
「えっ、わたしは白い炎だったよ」
「ぼくも白」
「ヤーリェの炎は紅葉のものだ。光と響のは、たぶんお互いのものだろうな」
「どういうこと?」
「詳しいことはカイトに聞かないと分からないけど…。自分に近い者で、その時点で助けられる力のある者が、その世界に干渉してくるんだ」
「助けられるって…。自分の本質って、そんなに危ないものなの?」
「どこまで行っても同じ世界が続いてる。つまり、出口がないということだ。自分の世界なのに、自力で脱け出せないなんて、どうかと思うけどな」
「それは別に…」
「そうか」
「それで?なんで光の夢に、わたしの炎が出てくるのよ」
「さっきも言った通り、響が一番光に近くて助けやすかったんだろ」
「それだけ?」
「本質の世界については、俺もよく知らないんだよ。聞くならカイトにでも聞いてくれ」
「だから、カイトってのが分からないのよ。誰なの?」
「俺たちがここに来たとき、見なかったか?不死鳥なんだが」
「あぁ。あれが?」
「そうだ。あれだ」
「あのときは、いきなり、目の前に、降りてきたから、びっくりしちゃった。そっか…。あれが、カイト…」
「頭が固いし、遠回しな言い方が好きなやつだから、話しにくいとは思うけどな」
「でも、大和は嫌いじゃない」
「ん?まあ…そうかな。ずっと昔から世話になってたしな」
「ふぅん。じゃあ、恩師だね」
「いや、恩師とは言い難い」
「えぇ~…」
昔からお世話になっていた…。
自分なら、姉さまや葛葉なのかな。
…大和はあんなこと言ってるけど、きっと、自分と同じことを思ってるんだぞ。