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「何を怒ってるんだ?」

「怒ってない」

「でも、すごく不機嫌そうなんだぞ」

「………」


やっぱり怒ってる。

落とし穴に落ちたからかな?


「そういえば、明日香がいないんだぞ」

「明日香は大丈夫」

「ふぅん…」

「ワゥ」

「あ。明日香」

「ご苦労さま。それで?」

「………」

「そう。良かった」

「何?」

「最後の一人は地下牢を選んだってこと」

「……?」

「はぁ…。でも、ルウェに怪我がなくて良かった」

「うん。明日香が守ってくれたんだぞ」

「うん…。そうだね…」

「どうしたの?」

「あんな簡単な罠に掛かって…。本当は私もルウェを守ってあげないといけないのに…」

「望…」


さっき怒っていたのは、望自身の役目を果たせなかったから。

それと、明日香の追跡の結果が気になってたのもあるかもしれないけど。

でも、それは全然違って。


「自分、望にもちゃんと守ってもらったんだぞ」

「ありがと。でも、慰めてくれなくてもいいよ」

「慰めなんかじゃないよ。望がいなかったら、自分、絶対にあの人たちに襲われてたし、それに…明日香も止められなかった…」

「ルウェ…」

「だから、自分自身を責めないで」

「…うん。ありがと」

「お礼を言うのは、自分なんだぞ」

「ふふ、そうかもね」


そして、望は優しく抱き締めてくれて。

とても温かかった。



また明日香の背に乗せてもらい、ひたすら森の中を進んでいた。

望の機嫌は、もう治っていて。


「ルウェ!ほら!ウサギ捕まえた!」

「昼ごはんにするのか?」

「朝にお肉は食べちゃったからね。昼は野草だよ」

「さっき採ってたやつ?」

「あれは薬草」

「…どう違うの?」

「薬草は薬になる草。食べることより薬としての効果が優先されるから、すごく不味かったり我慢出来ないほど苦かったりするよ」

「…じゃあ、いらない」

「私もそう思う」


そして、ウサギを逃がして。


「よし。まだ早いけど、準備だけしとこっか」

「うん」

「食べられる野草、毒のある野草、食べられるけど不味い野草。いろいろあるから、まずはちゃんと見分けがつくようになろう」

「うん!」


早速、明日香から降りて、周りにある草を見てみる。


「これは?」

「それは食べられるよ。ヤムルカだね」

「ヤムルカ…。じゃあ、これは?」

「それもヤムルカ」

「でも、全然違う」

「これはちょっと古いヤムルカで、そっちは若いヤムルカ。ホントは若い方が美味しいんだけど、ヤムルカと次に来る旅人のために、若い方は残しとこっか」

「うん。分かった」


握っていた茎を離して、次に移る。

ヤムルカが無くならないように。

ヤムルカが無くなって、次の人が困らないように。

ちゃんと残しておくんだぞ。


「これは?」

「食べられるよ。スクンだね」

「スクン…」

「生で食べても美味しいよ。甘さがあって」

「ふぅん」


葉っぱを一枚千切って、食べてみる。

…うん。

蜂蜜とか砂糖とは違う、不思議な甘さがある。


「美味しいでしょ?」

「うん」

「またあとで、もっと美味しくしてあげるからね」

「うん!」


すごく楽しみなんだぞ!


「………」

「あ。明日香、それ、美味しいの?」

「ふふ、ルウェも食べてみなよ」

「うん」


明日香が食べていた草を採って、口に入れてみる。


「………。うえぇ…」

「あっははは。それはね、ムツカィっていう薬草だよ。すっごく苦いことで有名なんだ。解毒作用があって、食中毒のときなんかに食べるんだよ。明日香は違うだろうけど」

「うぅ…」

「じゃあ、これ、食べてみて」

「苦くない…?」

「うん。大丈夫」

「むぅ…」


望を疑うわけじゃないけど。

渡された草をちょっとだけ舐めてみる。


「……!」

「どう?」

「すっごく甘い!」

「うん。それはデガナの葉っぱ。苦味が甘味に変わる、不思議な葉っぱだよ。まあ、普通は実を食べるんだけど」

「実も美味しいのか?」

「うん。ていうか、葉っぱはあまり食べないんだけどね。って、そうだ。思い出した」

「何を?」

「ちょっと待ってね…」


と言って、望は背負っていた袋を下ろして、中を漁る。

しばらく、ガチャガチャといろんなものがぶつかり合う音が聞こえて。

何が入ってるのかな…。


「はい。これ」


そして渡されたのは、小さな鏡だった。


「これって…」

「約束だったもんね。びっくりさせようと思って内緒にしてたら、すっかり忘れてたよ」

「ありがとう!いつ買ったの?」

「昨日だよ。そんなことより、見てみなよ」

「うん!」


鏡を覗いてみる。

そこには自分の顔が映っていて。

そして、その顔には…


「何、これ?」

「それが龍紋。綺麗でしょ?」


鏡に望の顔が映り込む。

後ろから手を回してきて、前髪を上げる。


「ほら。ここにも」

「わぁ~」


上げてくれた前髪の下、額のところにもリュウモンがあって。

青白く光っていて、すごく綺麗だった。


「望、望!すごく綺麗なんだぞ!」

「でしょ?全部、ルウェのなんだよ。分かってる?」

「え?自分の…?」

「ふふふ。ルウェ、すごく綺麗だよ」

「自分の…。これが…」


不思議なかんじがした。

自分が自分でないような。

でも、こんなにも綺麗な光が、本当に全部自分のもの。

…葛葉も見てくれてたのかな。

綺麗って思ってくれてたのかな。

そうだったら嬉しいな。


「さあ、ルウェの龍紋も見れたことだし、昼ごはんの準備の続きをしよっか!」

「うん!」


自分の知らない自分を見つけられた。

リュウモン。

見せてくれた鏡に。

そして、鏡を買ってくれた望に…


「ありがと!」

「ん?あぁ。ふふふ。どういたしまして」


これ以上、どう言えば嬉しさを伝えられるか分からなかったから。


「わわっ!」

「えへへ」


だから、望に抱き付くしかなかった。

ありがと、望!

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