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遊牧史 Ⅱ 澶淵に盟す  作者: 神箭花飛麟


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1/5

Ⅰ 高平

中華は前漢の武帝が中央集権を確立し最大版図を築くも、後に外戚の王莽が「新」を建て、再び劉秀が後漢を再興した。

やがて群雄割拠の三国時代を経て西晋が統一するが、すぐに五胡という匈奴の後裔たちの乱入で南北に分裂、長き南北朝を経て隋が再統一し、続く唐が世界帝国として栄えた。

しかしその唐も安史の乱から衰退し朱全忠の簒奪で滅亡、五代十国の激しい交代期へと突入した。

朱全忠が後梁を建てて乱世が開幕したが、沙陀族の後唐がこれを滅ぼし華北の覇権を握った。

しかし後継争いで後晋の石敬瑭が遼へ燕雲十六州を割譲して加勢を請い、この地を失ったことで北方の脅威が永く続くことになる。

その後、遼による侵攻と後漢の短命な統治を経て、後周の郭威が政治を整えたのち亡くなり、養子の柴栄に帝位が譲られる。

これを好機と見た北漢の皇帝・劉崇は、遼に援軍を乞いつつ、後周が支配する華北平原の入り口である高平へと軍を南下させる。

※一刻は現在の単位で二時間。

954年-高平

劉崇が激怒した。

楊袞(ようこん)殿!遼の陛下が来るまで慎重に待てと言われても、所詮はすぐ逃げ出すような軍に我々は勝てます!」

「しかし、間者の報告では禁軍などは精兵と…」

「楊袞殿」

劉崇が怒る直前特有の笑みを浮かべた。

「我々を舐めないでいただきたい」

遼軍を生かさないこの戦は、負ける。


柴栄は、高平へと疾駆していた。

今年、三三歳になる新米皇帝である。

実家はもと裕福な商家だったが、経営に失敗して貧しくなってしまった。

そこでのちに父と仰ぐ郭威と柴栄の叔母が出会い、そこで養育してもらったのである。

父は五十で亡くなり、実子は全て殺されたため甥だった柴栄が皇帝を継いだ。

それを勝機と見た北の雄、北漢の劉崇が攻め込んできたのである。

柴栄の腹は煮えたぎっていた。

「趙匡胤!あと何刻で着く!」

禁軍(近衛軍)の趙匡胤に聞いた。

「あと半刻ほどかと」

遅い。

もう北漢は布陣しているはずだ。

「しかし、劉詞殿の後軍はこのままだと開戦に大幅に遅れます」

「いや、間者の報告だとどうやら北漢軍と遼軍は意見が分かれて遼軍は戦わないらしい」

「本当だといいのですが」

「なるようになる」

もともとめぐり合わせで皇帝にまでなったのだ。

生きてさえいれば負けても、また再起できる。

今はただ、全力を尽くすだけだ。

北漢軍が見えてきた。

覇気はない。

俺は勝つ。


趙匡胤は思い悩むのをやめた。

今は進むしかない。

伝令が来た。

「伝令!北漢軍三万!遼軍騎兵一万!」

「こちらは一万五千だったな。匡胤」

帝が言った。

「我々は中央に、白重晦を左翼に、樊愛能を右翼に展開しろ」

「樊愛能は逃げ出すかもしれません」

白重晦は忠臣だが、樊愛能は自分の私兵を温存することしか考えていない。

「構わん」

帝が微笑んだ。

「逃げたら、地の果てまで追い殺すまでだ」

「はっ」

「前衛、ぶつかります」

物見が叫んだ。

昨日まではどんな土地であろうと、今日には戦場となる。


「樊愛能が逃げました!」

「だろうな」

「北漢軍の張元徽の突撃を受け、私兵四千を率いて逃亡」

「向こうも遼軍は戦っていない。これで公平だな」

帝の神経は本当に謎だ。

「三万対一万一千か」

空はいつも、抜けるように青い。

「劉詞が来るまで後何刻かかる」

「さっき来た伝令の報告では、四刻かと」

帝は想像できないことを思いつく。

「匡胤、耐えれるか」

それを、趙匡胤は言って支えなければならない。

「帝が出陣なされば」

「お前、死ぬなよ」

「御意」

帝が禁軍のほうを向いた。

「朕は、出陣する」

誰も止めない。

この男のためなら、死ぬ気で戦える。


風が吹く。

矢が飛んできた。

目の前に落ちる。

柴栄は避けなかった。

さっきは何も言わなかった侍従の馮継業が叫んだ。

「ここで陛下が死なれては北周は終わりです!どうか撤退を!」

他にも数人が口々に撤退と言った。

「継業よ、忠義心はありがたい」

柴栄は言い放った。

「将軍たちが逃げ、兵が怯えている。朕がここで退けば、誰が戦うというのだ」

自分が行かなければならない。

これは、宿命というやつだ。

「行くぞ、趙匡胤」

馬を腿で締めた。


「ほう」

楊袞は驚いた。

北周の帝の柴栄が出てきた。

腰抜けの右翼はさっさと帰ったが、左翼と中央は精兵のようだ。

「あれは…」

唖然とした。

あれは武神だ。

柴栄が前に出てきて、横の若造が確か趙匡胤とかいう禁軍総帥だった。

二人は一体となって敵兵を恐ろしい勢いで薙いでいた。

さっきまで一切来なかった救援を求める伝令が来る。

「楊袞殿、どうか戦って頂きたく…」

「黙れ!」

小狡いぞ、劉崇。

「願い下げたのはそっちだろう。私は陛下ファンディに頼まれもしない限り、出陣はしない」

手で払った。

しかし、見落としていた。

北周は、遼の大敵になるだろう。

負け戦となりそうだし、さっさと帰らねば。


張元徽は疾駆していた。

もう周りの兵は十騎を切っていた。

「柴栄を殺せ!」

周りの兵を薙いでいく。

まるで木かなにかのように倒れていく。

張元徽は知らなかった。

それが、はるかに自分の体力を超えていることを。

そして、馬の持久力をも無視していたことを。


帝の前に逃亡した右翼を突破した張元徽が来た。

一目で分かった。

馬が限界に達していた。

もう潰れるだろう

「手を出すな!」

趙匡胤は叫んだ。

何人を殺したのだろう。

体が血で塗れていた。

馬が前脚を折った。

張元徽が落馬する。

「おのれ、柴栄!」

張元徽が叫ぶが、馬があっての武人だ。

他に北漢軍の兵は誰もおらず、帝が手を挙げた。

「稀代の勇将の死に、手を出すな」

一瞬だけ戦場が静まる。

「柴栄、おのれ」

言い、張元徽は倒れた。

もう死んだだろう。

「さて」

帝が馬に鞭打った。

「まだ終わっとらんぞ、匡胤」

禁軍は、四千から半分に減っていた。


「劉詞は来たか」

帝が叫ぶ。

「はい、来られました。速くお引きください!」

体力が限界だった。

他の禁軍兵士も目が虚ろである。

ここまで耐えれただけでもいい方だ。

それでいい。

戦というのは、耐えれた方が勝ちなのだ。


開封に帰還した。

何気ない顔で樊愛能が戻ってきていることに一番腹が立った。

「樊愛能」

「はっ。この度はご戦勝を祝賀致したく…」

「黙れ」

怒髪天を突く、という言葉は本当かもしれない。

「お前がつき従えた将軍全員を連れてこい」

「はっ」

表情のない顔で樊愛能が去った。

「趙匡胤」

「はっ」

「此度の軍旅で、逃げた将を」

激昂をなんとか抑えた。

「全て処刑せよ」

趙匡胤の顔が一瞬こわばるが、無視した。

国が強くなるためには、軍を強くしなけれならない。

そのためには、何も厭わない。

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