ワルモノ共が夢の跡
とある侍従の独白
「ヤソウ、お前は一体どういうつもりだ!」
一族が集まる場で、ヤソウ殿下は兄である王太子殿下に糾弾されていた。国王や王子たち、その側近らが、怒ったり悲しんだりしながら彼を見ている。
僕は侍従として壁際で控えながら、この悲喜劇を鑑賞していた。
ヤソウ殿下は長年の婚約者、リーヲ様の「生意気な態度が腹に据えかねて婚約破棄を申し渡した」ところ、いつもは穏やかで彼には甘い王太子殿下に怒鳴られたというわけだ。こんなことは初めてだった。ヤソウ殿下の尊大な態度に辟易していた僕は、侍従仲間と視線を交わしつつも、ヤソウ殿下がしどろもどろに説明する様をできるだけ表情を変えずに見ていた。
「せっかく父上、いや国王陛下が定めてくださった婚約者でしたが、あまりにも幼く、俺、いえ私は、待ちきれなかったのです」
「そんな……理由で……!」
ヤソウ殿下の言葉に王太子殿下はわなわなと震え出した。
「後、三年!たったの三年ではないか!なぜ今になって!」
ヤソウ殿下も負けじと言い返す。
「何故です、後継候補は俺以外にも十分いるでしょう、俺がそこまでしてあの子供と結婚する必要はないでしょう」
なんて言い草だと僕は思った。とても王族の発言とも思えない。そう思ったのは僕だけではないようで、怒りに満ちた空気がその場を覆った。
「馬鹿者!お前の血を一族の中に残したいと願うのがそんなにおかしいか!」
「あ、兄上……」
ようやくヤソウ殿下は声を震わせて恥じ入った様子だった。
「もう遅い。遅すぎる。剣の誓いを撤回など、王家の威信に関わる。それに一族以外のものと正式に婚姻など到底認められん」
それまで沈黙していた国王が音もなく立ち上がると言った。
「お前を、お前を一族から放逐せねばならん。それだけはしたくなかった。お前には一族に多くの子供達をもたらして欲しかったのに」
「ほ、放逐!?」
「前例を作るわけにはいかんのだ。一族でない者を正式に娶りたいならば、もう一族の者とは認められない」
思い沈黙が落ちた。すると。
「陛下、一大事にございます!」
大臣が息を切らせて広間に飛び込んできた。前代未聞の出来事だ。
「何事だ、今のこの事態よりも重要でなかったなら容赦せんぞ」
国王は怒鳴った。だが報告されたのは、確実にこの事態よりも重要だった。
「隣国マレタの軍隊が攻め入ってきたのです、辺境は難なく突破されたとか!」
始まったのだ。僕は、ずっとこの時を待っていた。
僕の母親は、現国王の庶子だった。つまり現在の王太子の異母姉だ。
この国では庶子は王族とはみなされない。扱いも雑で、衣食住さえろくに整わず、大勢いる王族の庶子たちの一員として育ったらしい。
僕の父である隣国のマレタ王が王太子だった頃、この国の王族との婚姻を望んだ。そして送られてきたのが母だった。母は大切に扱われた。母は隣国マレタに嫁いで初めて、人間らしい扱いをされたと感激していたという。
父はマレタ国王として即位した後、大勢の子供を設けた。僕もその一人。つまり僕はマレタ国の第三王子である。
その僕が、なぜ母の出身国であるこの国で従者などをしているのか。
もちろん、母の受けた仕打ちを許せないからだ。
この国の「王族」の連中は、自分たち「一族」以外は人を人とも思っていないらしい。だが母のような庶子だって、使用人たちだって、心も知恵もあるのだ。
そんなマレタ国では当たり前のことが、この国では通用しない。こんな国は我がマレタ国が統治してやった方がずっと良くなる。僕は、侍従をしながら虎視眈々とこの国の情報を集めた。地形や道筋、軍の規模。様々な情報を流し、マレタの軍を引き入れた。彼らは僕の情報を元に、すぐにこの王都までやってくるだろう。
これまで僕は、この国を支配した後、どいつがどこまで役に立ちそうか、どいつにどんな目にあってもらおうか、毎日妄想しながら屈辱の日々を耐えていた。全員の首を晒してやろうと思う日もあれば、それよりも彼らが嫌がる「一族以外との婚姻」をさせてやり、尊い一族の血とやらを絶えさせてやろうと思う日もあった。
そしてついに、マレタの軍隊がこの国にやってきた。母や大勢の庶子たちの恨みと僕の長年の屈辱を晴らし、この国の民を救う時がやってきたのだ。
さて、この国をどう料理しようか。
はてさて登場人物らの運命やいかに。
どちらにしても、次期准太子くんとリーヲちゃんが結ばれる未来はなさそうだなあ。
続きを妄想していただけたら嬉しいです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。




