case4 王太子はワルモノ
王太子(40)の独白
我が王家には、王となる者だけが知る秘密がある。王朝の始祖である初代王についてだ。
初代王は、腐敗し切った前王朝を倒し新しい王朝を開闢した。それだけの軍事・政治の手腕の持ち主で、前王朝に抑圧されていた者たちは上位の者から民草まで、初代の即位を熱狂的に歓迎したらしい。
そんな初代には即位前から献身的に支えた妻がいた。初代のいとこであったらしい。初代は若い時分にその女と結婚して彼女との間に数人の子を成した。女の支えに寄るところは大きく、初代は現在の我が国の王として即位した。
だが即位すると、初代は権力の安定のため力も財力もある地方豪族の娘との婚姻を望んだ。そこで女とは離婚しようと画策した。また豪族の娘は将来の夫の周囲に昔の妻がいることを嫌った。
離婚と追放を命じられた女は逆上した。それまでさんざん支えてやったのに、ようやく即位した途端に離婚など。彼女は豪族の娘を惨殺し初代にも刃を向けた。初代は妻と離婚しようとしてその妻に命を絶たれるという事態になった。取り押さえられた女は、その後処刑された。
女は、処刑間際に呪いの言葉を残した。
「王と私の子供たちも、その子孫も皆、一族の者としか婚姻は結べない。私たちの間に余所者の血など一滴たりとも許すものか!」
そして、初代が没してしまった以上、その女の子たちを後継に据えるしかなく、周囲は幼い子らを支えながら我が国の礎を築いた。幼い子は成長して、やはり従兄弟の娘と婚姻した。我らこの国の王族は皆、その子孫ということになる。
それ以来、我が一族の直系の者は皆、一族と見なされた者としか婚姻できなくなったというのだ。
十二歳で立太子した時、国王である父からこの話を聞かされたが、私はそんな話は一族内での近親婚を受容させるための作り話だと思っていた。
父王の子は、私と弟の後、二人男児が産まれたが、二人とも成長することなく夭逝した。妹たちも十歳を越えることなく儚くなる者が続出した。生き残った者も体の弱い者が多く、人々は、やはり血が濃くなりすぎたのではと密やかに、だが明確に懸念を抱いていた。
そんな中、母がまた出産した。男児だった。だが赤子は数時間後に死んでしまったそうだ。
その数日前、父の愛人も出産していた。愛人は出産で儚くなったそうだが、この子もまた男児だった。
父の愛人は、一族の者でない母親を持っていた。外の血が混ざった愛人との子。普段なら、大勢いる他の庶子たちと同様に扱われるはずだった。だが父は、この子をヤソウと名付け、母が産んだ子として発表することにした。父の本当の意図はわからない。新しい血が欲しかったのか。愛人をそれほどまでに愛していたのか。そして父の愛人の子を我が子とさせられた母の心のうちも。
この事実を知っているのは、今ではもう私と父王だけになってしまった。他の者は誰も知らない。本人すらも。
この弟、ヤソウはすくすくと成長した。他の兄弟たちよりも体も丈夫なようだ。この弟の血があれば我が一族も生き延びるかもしれない。弟にはなんとしても一族の間に新しい血をいれてもらいたい。今では私もそう考えている。ヤソウは、一族の希望だ。
特に、現在の我が国を取り巻く国際状況を考えると死活問題だ。我が国は大勢いる庶子たちを隣国諸国の王族や有力者に嫁がせたり婿入りさせたり養子にやったりしていた。血縁を理由に、各国は領土や権利を要求している。もし我ら一族の者が絶えてしまったら、我が国は奴らに食い物にされてしまうだろう。
だが、ヤソウの婚約者は次々と亡くなってしまった。その度、あの言葉が頭をよぎった。
「一族の者は一族の者としか婚姻できない」
……一族の者でない血が混じったヤソウは、一族の者とは婚姻できないのだろうか。
そんな馬鹿なと思う。ただの言い伝えだと。
父はヤソウに三人目の婚約者を用意した。私のもう一人の弟の子、リーヲだった。
私は安堵した。これで大丈夫、きっとヤソウは一族に健康な血を残してくれる。
これは一族に新しい血を入れる最後の機会だ。ヤソウの三人目の婚約者リーヲはヤソウよりも随分若い。彼女より下の世代の者たちは、私の子供たちの結婚相手にならねばならない。
私は長い間、ジリジリと待った。ヤソウが無事結婚して健康な子供達を設ける時を。
しかし、それは夢に終わった。ヤソウは、リーヲに対して婚約破棄を申し渡した上で「決してリーヲと婚姻はしない」と剣の誓いまで立ててしまったのだ。
現在の准太子である弟はカンカンだ。そもそもが自分の大切な娘のリーヲとヤソウを縁組させるのも不服だったのだ。十五も年上のヤソウより、例えば私の子供達に嫁ぐ方が、彼女自身も彼女の家もずっと安泰だからだろう。
ヤソウはなんということをしでかしてくれたのか。不品行も怠惰も、一族に新しい血をもたらしてくれるだろうからと片目をつむって見ていたというのに。奴をどうしてくれようか。期待が大きかっただけに、失望感がただ事ではない。
一体我らは、どうすれば良いのだろうか。
知らんがな。




