case2 婚約者はワルモノ
ヤソウ第三王子の婚約者リーヲ(12)の独白
あー、よかった。あんなオジサンと結婚せずに済んで。
三歳の時から婚約者だったのは、私の父の弟のヤソウ殿下。十五歳も年上の、文字通りの叔父さんだ。私はこの婚約者が大嫌い。婚約者も私がお嫌いのようだけど。
婚約した当初のことはあまり詳しくは覚えていない。というか、記憶に残るほどの交流もしていなかったと思う。
幼い頃のあのオジサンは、「マズいお菓子のオジサン」だった。あのオジサンはいつも私に同じお菓子、果物の酒漬けを混ぜ込んだ上に酒を染み込ませたケーキを持ってきていたの。三歳だった時からずっと。幼児にそんなお菓子を持ってくるなんて、嫌がらせか余程の馬鹿か、その両方なのかしら。その頃から私はあのオジサンが大嫌い。
その上、このオジサンたら、あちこちで遊びまわって子供を作っているのよ。中には私とそれほど歳が変わらない子もいるみたい。そんなただれた、どんな病気を持っているかわからない十五も年上の尊大なオジサンと結婚して子作りなんて、無理無理。嫌すぎる。
それでも私は、王族としての責務だと自分に言い聞かせて覚悟を決めていた。幼い頃からの教育の賜物かもしれない。一方でオジサンは、一貫して私を見下し蔑ろにしてきた。
我が国の制度では、私たち王族は皆、「姫」「王子」と呼ばれるけれど、「殿下」の称号で呼ばれる資格があるのは王の子供のみ。現在、男性では伯父である王太子殿下、私の父、そして私の婚約者のあのオジサンの三名のみ。だからあのオジサンは、たとえ王族でも私たちを下に見る。
でもね、オジサン。
現在の国王陛下であるお祖父様だってご高齢。引退をお考えなのをご存知ないの?本当に、目の前のことしか見えていない視野の狭い人、って噂通りね。
お祖父様が引退して王太子殿下が国王に即位なされば、あなたはもはや「殿下」ではなくなる。現王太子殿下のお子様たちが「殿下」になるの。長男様が王太子に、次男様が准太子になられ、父やアナタは王子に逆戻り。アナタが見下している私たち「子供」世代の王子の方が、アナタの上位に立つのです。
そうなることは、アナタが産まれた時から決まっていたことでしょう?
ところで、王太子殿下の次男王子で、いずれ准太子になられるソーヤ様には体の弱い婚約者様がいて、その方、ご病床で明日をもしれないのはご存知ないのかしら?
もしソーヤ様の婚約者様が儚くなられたら、次の結婚相手になり得る一族の者は私くらいしかおりませんのよ?ソーヤ様ご自身がそう仰せでした。だって「王子」より「殿下」のほうが優先されるのが一族の掟。アナタがわざわざ婚約破棄などしなくても、訃報があれば私はソーヤ様の婚約者に変更になりますのに。ソーヤ様ならお年は十六、年廻りも合いますし、何より私を赤ん坊扱いなどしません。
アナタとの交流が皆無だった一方、あの方とは幼い頃から親しくさせていただいておりました。あの方はアナタのことを憂いておいででしたわよ?現在のところお荷物でしかないのに、尊大で遊蕩好きで女性の敵だと。同意しかありません。
ですから私、ほんのちょっとだけアナタを焚き付けて差し上げましたの。でも、十二歳の「子供」からのたったあれだけの挑発で、あそこまで簡単に婚約破棄を宣言するとは思いませんでした。剣の誓いまで立てられて。堪えていたけどつい、両頬が上がってしまいましたわ、見られたかしら?
できればあのオジサンには二度と会いたくないけど、そうもいかないとはわかっています。どうせ顔を合わせるなら、アナタが蔑ろにし続けた「ガキ」が幸せな姿を、見せつけてやることにいたしましょう。
二十七歳はオジサンじゃないやい(叫び)




