なにかを知っている
「あぁ、そんなに警戒せんでもええ。儂はここのまとめ役みたいなもんじゃ。こっちは儂の妻じゃよ」
老人の男性はそう名乗る。隣にいる女性はにこにこと笑うばかりだ。
怪しくは、ないと思う。
だが、トウタは無意識にショウを守るように抱えた。
なんだろう。力では勝てる相手なような気がするのに、逆らってはいけない気がしてしまうのは。
ショウを抱える手が震える。
この老人が考えていることが分からなくて、何が目的なのか。
そんなトウタを知ってか知らずか、老人はほほほと穏やかに笑って顎髭を撫でる。
隣に立つ老人の妻と呼ばれた老女も、にこにこと笑う。
まるで警戒心を解こうとしているかのように。
「よいよい。なぁに、儂は君たちの助けをしたいだけじゃよ。君の相棒は何かを無くし始めているじゃろ?」
「………………!?」
「知りたければ、儂に付いてくるといい」
そういって老人はくるりと背を向ける。老女も老人に支えられ歩き出していた。
トウタはショウを抱きしめる手に力を込めた。素直について行っていいのだろうか。
信じるわけじゃない。
だけど、何か知っていそうな老人の話を聞きたい。
(でも、ついて行っていいのかな)
どんどん離れていく老人と老女の背中を見つめながら、唇を噛み締める。
「トウタ……行こう」
ぎゅっ、とトウタの手をショウが握る。その力とても弱いものだった。
だけど、その前を見すえる目の力は強い。
「ショウ、大丈夫……なんだね? 分かった、行こう」
その目があまりにも覚悟の決まった目をしていたから、トウタは強くうなづいた。
ショウを立ち上がらせると、大丈夫だと声をかけられる。
トウタは今一度、うなづくとショウから離れた。
「ありがとう。あの二人を見失っちまうな。急ごう」
うん、とトウタは返事をした。
トウタたちは並んで駆け出し、老人たちの後を追いかけた。
バスターミナルからだんだん離れ、地下へと潜っていく。
そこには地下街が広がり、通路兼店舗が並んでいた跡地だった。
並べられていたであろうカバンや洋服は既に盗られてない。
だが、僅かに残っている値札や飲食店の食品サンプルがかつての姿を今でも伝えている。
その中の一つ、シャッターの降りたひとつの店舗に明かりが灯っていた。
「あそこだ……」
トウタとショウはそこに足を向ける。
半分降りているシャッターを覗き込むと、ひとつのランタンを前に、老人と老女が座ってまっていた。