異変
その時、ふとショウが足を止めた。
訪ね歩いて恐らく数時間だった頃だった。
バスターミナルから少し離れた元地下街。カフェや雑貨屋が並んでいたであろう場所は、雨風しのげる場所として、家を失ったものたちが集まるそんなところだった。
立ち止まったショウの背後で、トウタも立ち止まる。
かなり歩いた足は棒のようだった。何も成果が得られないことも、疲労に繋がっている気がする。
ショウはさらに疲れているのだろうと、トウタは思った。
「疲れた? 少し休む?……ショウ?」
立ちすくんで動かないショウを、訝しくなり覗き込む。
その目は一点を見つめて、光を失っている。
表情は抜け落ちて、心さえも落としてしまったようだった。
「……ショウ! しっかりして……!」
慌てて体を揺さぶる。
まるでショウの魂が遠くに行ってしまったようなそんな感覚に襲われる。
「ねぇ、ショウ!!」
戻ってきて、と声をかけ続けるとはっとしたようにショウがトウタの顔を見た。
やっと心が戻ってきたような顔だ。
ショウ自身も驚いたのか、なにがあったかわかっていない様子だった。
自分の状況を確かめるかのように、辺りの様子を見回す。
顔は真っ青で血の気がなく、冷や汗が額から落ちる。
「どうしたの? 具合悪い?」
心配になってトウタは、ふらつくショウの体を支えた。
なんだかショウの背中が小さく、頼りなく思えた。
「いや……おれ……なんで……? な、何しにここに、来たんだっけ……?」
えっ? とトウタはショウの言葉に耳を疑う。
「何しにって、ここにヒカリの手がかりと黒服について調べに来たんだよ。……まさか忘れたの?」
「え、あ……いや……ヒカリは覚えてる……。けど、なんでだ……その他が……覚えてたはずなのに覚えてない」
なんでだ、と繰り返すショウはとても苦しそうにその場に座り込んだ。
額に滲む汗が涙のように落ちる。
「ショウ、とりあえず一旦休んで落ち着こう」
トウタは今一度ショウを立たせて、どこか休める場所と視線をさ迷わせた。
その時。トウタの背後から声をかけられる。
「何かお若い方、お困り事かな」
声をかけられると思っておらず、慌てて振り返る。
一瞬、敵か、と思ったのだ。
しかし、そこに立っていたのは白い髭を蓄え、少し腰の曲がった老人の男性。
そして、同じ歳くらいの女性が寄り添うようにして立っていた。