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だからまだ


宙に浮きながらトウタは体を起こし、眼下に広がる大地を見ていた。

さながら神様にでもなった気分だった。


きっと、この世界のどこかにショウとヒカリは居る。それに、サクラも。


「最期のお願い、サクラは聞いてくれるかな」


二人をどうか守って、というトウタの願いは届いただろうか?


──この世界で生きるわ。


──トウタがいる世界でね。


そう、ヒカリが言ってくれたこと、それにショウが賛同してくれたこと。

それだけで、トウタがいた価値はあっただろう。


「サクラの言う通りだったなぁ。二人に聞かなきゃ分かんなかったや」


その言葉だけで、トウタは十分だった。十分すぎた。


もう、手足は透けてほぼ無い。その分、新しい世界は構築されて、大地が広がる。


「あ、いた……トウタ」


「あ、ケイ……チカ……」


名前を呼ばれて振り返ると、ケイとチカがふわりと舞い降りる。

彼らの姿も透けていて、段々と存在が希薄になって行っているようだった。


「ごめん、僕のワガママに二人を巻き込んじゃった」


トウタは俯いた。新しい世界を創るという決断をしない、とはトウタの中では有り得なかった。が、この決断をしなければケイとチカを巻き込むことにはならなかっただろう。


トウタだけの容量を空けたところで、たかが知れていた。そのことに、トウタは罪悪感を覚えていた。


「ふたりをこ……」


「言うな」


トウタの言葉をさえぎるケイの強い声。

トウタは思わず口を噤んだ。


「俺たちは俺たちなりに選んだだけだ。ただ、それだけなんだ」


「そうだよー、言ったでしょ。最期くらい、私たちだって役に立ちたかったの」


もう、それ以上言わせないで、とチカはケラケラ笑っていた。憑き物が落ちたように、清々しい笑いだ。


ケイも肩の荷が下りたとでも言いたげに、肩をぐるぐると回す。


「でもま、まだ最後の仕事があるな」


「だね!」


「ん? 何かあったっけ?」


ここまで来て何があっただろう。

トウタは首を傾げる。もうすでにやるべきことは終わっている。残された力も、時間も最早ない。


やり残したことはあっただろうか、とトウタが少しの焦りを見せて必死に考えていた。


すると、ケイはトウタの肩を掴む。


「まだ、兄さんは人として生きてないよ」


「そうそう。私たちの願いは、まだ叶ってないもの」


チカはトウタの手をとって、ぎゅっと握りしめた。


「私たちはあの時、願ったの。兄さんに、人間として生きて欲しいって」


「………………なに、言ってるの? 僕は…………!」


人間じゃない、とトウタが言おうとした口を、チカは人差し指で制した。

感触なんてほぼ無いに等しいそれは、温もりだけがそこにあるようだった。


「俺たちは兄さんの記憶を奪った時から、人間だと思っていた」


「だから、私たちは兄さんのことも守るって誓ったの」


だから、生きて。

と、ふたりは口を揃えて言う。


だけど、トウタはそれは出来ないと首を振った。

トウタは自分から消えると決めて、ふたりも巻き込んだのにそれは許されないと思っていたからだ。


じぶんだけが、生きるなんて考えてなかった。否、考えられなかった。


「それでもいいの、これは私たちのワガママだよ。兄さん、聞いて欲しいな」


ね、とどっちが年上か分からないふうにチカに慰められる。

決心していたはずの、トウタの心が揺れた。


「本当は……帰りたいんだろ?」


「そんなこと……!」


「なわけないよ、トウタは分かりやすいからな」


ない、とは言いきれない、トウタの心の内を見透かすようにケイは真っ直ぐ見つめていた。

あまりに真っ直ぐなケイの瞳に、トウタは目をそらせずにいた。



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