滅ぶ世界の果てで
「トウタっ!!!!」
「待てっ……!!!」
最後に、トウタの耳にヒカリとショウの叫ぶ声が悲鳴のように聞こえた。
本当はトウタは一度振り返りたかった。
だが、トウタは一度も振り返らずに穴の底に向かう。
きっと、顔を見たら離れがたくなってしまうだろうから。
「さよなら……」
きっと、そのトウタのつぶやきは小さすぎて超えなかっただろう。
空を飛ぶようにトウタは、両手を広げた。
重力で引き寄せられるまま、その身を流れに任せる。
びゅうびゅうと耳元で風を切る音が聞こえる。
トウタの刀が目の前に迫る。電撃がトウタの頬をかすめ、びりびりと痛みが走る。
その痛みに耐えながら、トウタは柄に必死に手を伸ばした。
「行くよ、二人とも!」
「ああ!」「うん!」
同時に、ケイとチカも手を伸ばしトウタたちの手は力強く柄を握った。
瞬間、目の前に火花が散る。目の前が焼き切れるような感覚に、トウタは思わず刀を握る手に力を込めた。
(あぁ、きっとこれは、僕らを消そうとしてる……)
暴走する刀は、トウタたちの情報、所謂プログラムを読取って片っ端から結合を解いていこうとしていた。
(だめだ、消される訳には……いかない)
消される前にトウタは成さねばならないことがある。
たとえそれで自分自身が消えたとしても。
「行くよ、ケイ、チカ、準備、いい?」
途切れ途切れのトウタの言葉に、ケイとチカは小さく頷く。表情は歪んでいて、
恐らく、ケイにもチカにも余裕はなく、頷くのが精一杯なのだろう。
もう、あまり時間が無い。
これ以上、自分たちの容量を消されては……。
「主、トウタの名の元に、情報の解離を停止!」
徐々に消えていく自分自身を感じながら、さらにトウタは最期の力を振り絞って叫んだ。
「ショウとヒカリがいる世界を……生きる世界を……再構築っ!!!!」
トウタたちは刀に体重をかけた。それはすんなりと地面を裂き、地割れを起こす。
「これで良かったんだ」
トウタの命に呼応するように、地割れから青白い光がこぼれ出しトウタたちの姿を飲み込んだ。
──トウタ!!!!
最期に、トウタの名を呼ぶ声がした。
けれど、トウタにはもう誰の声が分からなかった。
────────────────
気がつくと、トウタの体は空間の中でたゆたっていた。
目をそっと開くと、青い空が見えた。雲ひとつない、青空。太陽の光が降り注ぎ、暖かい風がトウタの頬を撫でた。
太陽にかざすと、その手は透き通ってて青空が見えた。
「もう少しで、消えるのか……」
だんだん、トウタの意識が薄れていく。残っていた記憶も、順調に消去されているようだった。
これでいい、とトウタは満足気に呟いて笑う。自分自身が消えるということは、新たな世界を生み出して維持するためのメモリーを空けるこに繋がっていた。
裏を返せば自分たちが消えれば、出来た空き容量に違う世界を創造できることにほかならなかった。
新たな世界の始まり。氷の世界の果てから、新たな暖かい世界が始まる。
トウタはそれを望んだのだ。
「氷じゃない、できるだけ温かい場所。僕が持ってる生きていた頃にみたいに……」
トウタが託された母親との記憶だ。まだこの世界が滅ぶ前の、世界をショウとヒカリ二あげたかった。
それがつかの間の、あと少しで終わるものだとしても。




