黒服の行方
「どんな人……? そうだな……ヒカリはかなり口うるさいヤツだよ」
ショウは星空を仰ぎ見る。トウタも倣って空を見上げた。
星がキラキラと輝き、
「俺はかなり雑だからさ、その日生きて行ければいいって思ってるんだけど、早く寝ろ、ちゃんと歯を磨け……って俺の母さんかって思う。けど」
そこまで言って、ショウは目を閉じる。きっと、ヒカリを思い浮かべているのだろう。
その表情は、優しく、そして寂しそうだった。
「いなければいないで静かすぎて敵わないな……と思う」
「そっか……」
静かすぎて敵わない、と言ったショウの言葉はトウタも覚えがあった。
一人でいる今が、とても静かだったからだ。
「それに、ヒカリと何か大切な約束をした気がするんだ。それが何だかずっと思い出せなくて、心に引っかかってる」
ショウは胸をおさえた。まるで胸の痛みの正体を握りしめるように。
その痛みを忘れまいとしているようだった。
「僕も、その気持ち知ってる。僕も、同じだから」
えっ、とショウはトウタに聞き返す。
トウタはとても穏やかに答えた。
「僕も、なにかずっと忘れてる気がするんだ。それがとても大事なものだったって、分かってるのに……」
右手を見つめるトウタは、この手に誰かと手を繋いでいた気がしていた。それが誰かわからない。思い出そうとすると、霧のように霞んでしまう。
それがトウタもずっと静かすぎて、心が寂しかったのだ。
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「まずはこの黒服がどこの誰か突き止めないと」
トウタとショウはあくる日から、ヒカリの行方と黒服の正体を探し始めた。
手がかりは手元にある黒服のコート。
「これを着てたのはどんな人達だった?」
まず行方を探す前に、この服の持ち主がどんな人物だったか情報を共有しようとショウに問いかける。
そんなトウタの問にショウはこの黒服のことを話し始めた。
「確か……ヒカリと何か話してて……何か約束したんだ……。絶対に、二人で叶えようね、ってあいつが言って……」
恐らく消えかかっている記憶を必死にたぐっているのだろう。ショウはそれでもその記憶の欠片を捕まえていた。
「そしたら……あいつら、何人かで襲いかかって来たんだ。その夢を叶える必要は無い。それよりももっと必要なことがあるって」
その約束とは、忘れてしまった約束だろう。
それで襲われて、ヒカリは攫われた。
なら、約束を思い出せれば相手の目的も分かるかもしれない。
それに、ひっかかるのはその約束よりも大切な事があると本人たちに言ったことだ。
その約束を蔑ろにするその発言に、トウタを少なからず怒りを覚えた。
「って、それよりも必要なこと……ってなんだ。俺たちは俺たちの約束があったのに」
ショウも同じ怒りを覚えているようだった。
それもそうだ。大切な人との約束を、他人が無下にする発言をしたのだから。
「ショウ、大丈夫。必ず、ヒカリを取り戻そう。その約束もね」
「あ、ああ」
「ショウの話からすると、相手は複数だったなら、組織的に動いてるのかもね。それに、相手は何かショウとヒカリに何かさせようとしてるのかも」