自分たちで決める
「結果がこれだなんて、みんなが報われない。あなたを…………含めてね」
人類を救おうとして、全てを賭けてきた人がいる。ここにいる、全ての人がだ。
きっと、見えないところ、知らないところでも沢山いるのだろうとトウタは思う。
その人たち全てをかけても、自然の力には勝てなかった。
トウタはその無力さに、どうしようもなくただただ打ちひしがれた。
(僕は、何か役に立てた、立てるだろうか)
頭の中──トウタの本当の脳で考えているわけではないけれど、統計に基づき計算してしまう。
あとどれくらい生きていられるだろう?
仮想空間の稼働時間は?
どのような終わりが来るのか……?
トウタの思考は、とてもシビアで真っ黒な未来しか映し出さなかった。
ふと、トウタはヒカリとショウに目がいった。絶望的な状況の中、二人の目は諦めてはいなかった。強い、生きている人の目をしていた。
前だけを見据え、絶望的だと分かっていても絶対に、後ろは振り向かないと言った意思があった。
「本当は、もっと早くこうするべきだったと思うの。滅びは止められないって分かった時点で、人々は生き方を変えられたはずだったのよ」
モニターに映る疲れ果てたハカゼをまっすぐ見たヒカリ。
そして、その隣に寄り添う強い眼光のショウ。
立場は同じであるはずなのに、対象的だとトウタは思う。
同じ生き残りなのに、同じように生きているのに。
「だから、あなたに見せてあげる。私たちが何を選んで、どう生きるのか。終わる世界で最後まで、生き抜く様をね」
ヒカリはまるでこんなこと、何ともないと言いたげに笑った。
「………………この世界で生きると?」
ハカゼがヒカリを見据え、ヒカリは強く頷く。
「どっちみち現実世界に戻っても、同じなら私はここでいいかな。こっちで過ごした時間の方が長い気がするし」
「まぁな、それにここには……」
「トウタがいるしね」
トウタはショウとヒカリの言葉に顔を上げた。
きっと、ショウとヒカリも気づいている。
現実世界に戻るということは、AIであるトウタと別れを意味することに。
だからこそあえて、仮想空間に残る選択をしたのだと。
もう救われないとわかった上で、それでも生き抜くと言った強さを、トウタはとても尊いと思った。
それ以上に、トウタを選んでくれたことがとても嬉しかった。
(この二人の役に立ちたい)
全ての人の為に創られたAIである自分が、誰でもないショウとヒカリの為になりたいとトウタは強く思った。
そうして思いつく。
(この二人の、生きる場所を作りたい……)
こんな氷の世界ではなくて、もっと光溢れる場所で生きていて欲しい。自分を選んでくれたから、せめて二人には穏やかな日々を贈りたい。
トウタの願いはただひとつだった。
しかしトウタの思いとは裏腹に、ハカゼは荒れ果てた心の内を吐き出し続ける。
「…………そんなこと…………もう無理だ。生き抜くだと? もう終わるのに……」
あぁ、とハカゼは頭を抱え込む。
「一人は、もう嫌だ。この世界で一人で……なぜだ……!」
流れる涙を拭わず濁った瞳が、モニター越しに光る。
それは思いついてしまった、と言いげににやりと口角がゆがむ。
「そうか、終わりなら全て終わらせればいい。私も、現実世界も仮想空間も全て壊せばいい!!!!」
「父さん……!!!!」
ケイがハカゼを呼び叫ぶが、無情にも届かなかった。画面が揺れ、砂嵐とともに画像が途切れる。
直後、白い空間が大きく揺れた。
「地震な訳ないよな!?」
「でも、地震みたいだよ!?」
仮想空間で地震なんて起こそうと思わなければ起きないことは、トウタは重々承知だ。
身をかがめながら、トウタは叫ぶ。
「みんな、姿勢を低く! 早く!」
トウタの頭上の空間が卵の殻のように、ヒビが入っていく。ほどなくして地面にも。
このままではみんな奈落の底へ落ちていってしまう。




