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初めて生み出されたもの


「父さん…………」


「あの人が、ケイとチカの……? それにトウタに酷いことした人…………!」


ケイの小さなつぶやきを聞き逃さなかったヒカリがぎゅっと拳を握る。

その目は怒りに満ちていて、口はわなわなと震えている。

今にも飛びかかりそうな勢いのヒカリを、ショウが腕を掴んで引き止めている。


トウタはヒカリのことはショウに任せ、画面越しのハカゼと向き合う。


「………………特別とはどういう意味です?」


トウタの思った以上に声が震えた。

心の中に湧き出るこの感情は、畏怖だ。自分たちを創り上げた親。

むしろ親以上の存在かもしれないトウタは思う。


逆らっては行けない存在にして、ずっと一緒にいたいと思わせる相手。

そんなふうに、自分たちの中にプログラムされているのだろう。


だからこそ、こんなふうにトウタは再会したくなかった。


「それさえも、お前は教えられていないのか! つくづくお前は嫌な存在だ」


「…………? 」


「……………………どういう意味だと? それさえも知らないなんて憎らしい……!」


だん! とモニター越しに大きな音が響いた。どうやら、ハカゼが拳をテーブルに叩きつけたらしい。一瞬、モニターの画面が乱れ不鮮明になる。


「お前とお前が持たされた刀は、この空間を全て崩壊へ導く剣だ……!」


しかし、トウタは目を逸らさずハカゼを見つめ続ける。


「その目、お前の母親に似ている。この仮想空間で初めて創られたAIのくせに」


「かぁ、さん?」


そう言えばトウタは自身の母親について知らなかった。顔は朧気に覚えているだけだ。

記憶が消された、というよりも産まれたての自我だったせいだろう。不鮮明な記憶だけが、トウタの中に残っているだけだ。


「お前を創ったやつは、大層憎らしいやつだ。この仮想空間でAIという存在を初めて創りった、それもこのプログラムの奥深くを担うものとして……!」


それがどういう意味を成すかわかるか? とハカゼは叫ぶ。


「お前は試作品……プロトタイプだ。何かあればすぐ消される。だがこの仮想空間のプログラムを揺るがし、崩壊を招きかねないコードを組み込んだ」


だから、とハカゼは続ける。


「お前に何かあっても、消し去るという手段を取れなくなった。だから、こんな記憶を消すなんて言う七面倒臭い手段を取らされる羽目になった……!」


だから、お前が持たされたあの剣も消せない! とトウタの存在を疎むハカゼは、なかば半狂乱でぶつぶつとトウタに呪いとも言える言葉を吐く。


だが、ハカゼが吐く言葉が、母親の思いをトウタに告げているようだった。


(母さんは、僕に役目をくれた。それに、消されないようにって……)


少しは愛情を持ってくれたのだろうか。

トウタが本物の人間じゃなくても、誰かの代わりだとしても。


「暴走なんてする危険なAIを消せないとは……本当に、忌々しい!」


きっと、母親のこの判断がなかったら、トウタはあっという間に消されていただろう。

ハカゼの手によって。


「ありがとう、母さん……」


小さく呟いた、トウタの声はハカゼには届かない。

なおも、ハカゼは口から滑るように言葉を続ける。


「この計画を進めるために、危険も承知で全てを賭けてきたのに……維持できないのであれば、死人も、憎きお前も全て使う、ただそれだけだったのに……!」


意思を強く宿した声は、トウタの背中を走るようだった。これだけは、必ず成功させるという強い執着を感じる。

それに反して、ハカゼの目はとても濁って見えた。伽藍堂な目は何も移さず空っぽだ。


話しているトウタさえも見ずに、遠くを見つめ続けているようなそんな目だった。


「そう、ただそれだけだ。私たちにはもう時間が無い。やれることはもうこれだけだ……!」


ぶつぶつと呟くハカゼは、ぼさぼさな髪を振り乱し、さらに掻きむしる。

ハカゼはかなり切羽詰まり、追い詰められているようだった。

それだけで、この計画が破綻していることを、トウタは嫌という程理解した。


理解して、トウタはハカゼに問いかける。


「どれだけ、人類は残っているんです? 外は、どうなっているんですか」


重要なのはそこだった。

あとどれ位人類は生き残っていて、外──現実世界はどうなってしまっているのか?


逃げ込む場所、現実世界の問題を解決すべく動き出した仮想空間はどこまで役に立ったのだろう。


どれだけ嫌な予感がしても、トウタは聞かずにはいられなかった。

じっと耳を傾けるトウタに、ハカゼは重い口を開いた。


「生き残りは、そこに居る二人と、現実世界は私しか、いない」


トウタたちAIは口を強く閉ざし、生き残りであるショウとヒカリは嘘、と言葉を吐き出した。


「結局、あなたは何がしたかったのよ。トウタやサクラ、ケイにチカをこんなに苦しめておいて……計画自体が無謀だったんじゃなの?」


重苦しい空気を破ったのは、ヒカリだった。


「仮想空間で解決策を見つけるまでは、良かったのに……人の記憶を消したり、死んだ人を蘇らせたり……人をなんだと思ってるのよ……」


ヒカリの目に、涙が浮かぶ。

いつか見た透明で綺麗なサクラの涙を、トウタは思い出す。






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