手が届かなかったのに
「なぁに、浮かない顔して。どうしたの」
「サクラ……うん……」
吐きたい弱音は確かにトウタにはあった。あるにはあるのだが、言っていいものか分からずにいる。
AIである自分が、弱音なんて。しかも、相棒であるサクラに対してなど。グルグルとトウタの思考は堂々巡りを繰り返していた。
今まで弱音なんて吐いたことの無いトウタは、どこまで言えばいいものかと考えあぐねてしまっていた。
音にならない言葉が、喉からあー、うーと言った呻き声を生み出していく。
「なぁに、もう……自分の正体を知ってなやんでるんでしょ?」
「…………まぁ、ね…………」
サクラはあっけらかんと言い放つ。
むしろ、うじうじしているトウタに痺れを切らしたと言ってもいいだろう。
しっかりしなさい、と一つ背中を叩かれるとトウタはよろめいた。
不意打ちとはいえ、情けないなぁとトウタは眉を下げた笑みを浮かべた。
「あのねぇ、そんなこと……あの二人は気にしてないと思うよ。むしろ……もっと……」
「もっと……何?」
そこで言葉を区切られて、トウタは続きを促すがサクラは首を振った。
続きを言うつもりは毛頭ない、とでも言いたげだ。
「これは私の憶測でしかないし、あなたが気づきなさい。それか、ふたりと話すこと。い、い、わ、ね?」
いつになく、サクラの言葉尻が強い。トウタはその圧力に負け深く頷くことしか出来ない。
サクラは何故か満足そうに目を細めて笑った。
「それでよし。言いたいこと、聞きたいことがあるなら本人に直接聞くの。誰かと話したって、本人じゃなければ答えなんてでないんだから」
遠い目をしながらサクラは、水平線に目をやる。
モヤがかかったように白く煙るあの先になにが待っているのだろう。
だがそれは何かが終わる気がしてならなかった。
「トウタ、私はこの先で自分の運命が待ってる気がするの」
トウタはその言葉に驚いて、サクラの顔を見上げた。
サクラはトウタを一瞬見、すぐに視線を空へと向けた。
「私もあなたも元人間。ショウとヒカリのように現実世界に肉体はもう無い。帰る場所はない。還る場所はあってもね」
「………………そう、だね」
そう、トウタたちに帰れる場所はない。それは分かっている。
分かっているからこそ、トウタは考えてしまうのだ。
ここに何が残せるだろう、と。
もし、自分に何かを残せるなら、ショウとヒカリの為に、何かを残したい。
トウタは深く考え込みながら、自分に最大に成し遂げられる何かを考えていた。
その時、ぎゅ、とサクラがトウタの手を握る。サクラの手はとても強く、熱い。
それはまるでトウタに、大丈夫だと言っている気がした。トウタの思いを後押しするように、強く握られるその手をトウタは握り返す。
(大丈夫、サクラが居てくれるなら、僕は何だって出来る)
「それに、トウタはもう答えが出てるんでしょ。何がどうなろうと……決めてるって顔してる」
「…………うん」
サクラの言葉通りだ。トウタはショウとヒカリが、自分のことをなんと思っていようとこの先のことは決めている。
「立派な覚悟ね」
「そんなんじゃないよ……」
本当は、ショウとヒカリがハカゼに会うのは反対だ。
だけど、会わないまま終われるとはトウタには等て思えなかった。
ならば、自分の手の届く位置でハカゼに会い、全てを終わらせた方が安全だ。
そう、トウタは考えたのだ。
「ごめん、最後までサクラに付き合わせちゃうね」
自分勝手だろう。
サクラひとりを守れずに、ショウとヒカリを助けようとするなんて。
それだけがトウタにしこりとなってのしかかる。
だが、サクラはまるで気にせずに笑っていた。




