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聞きたい、聞けない


トウタは刀を捨て、ケイとチカの元へ駆け出した。


「なっ」「うわぁっ」


驚いたケイとチカの声が重なる。

走り出した勢いのまま、ケイとチカを強く強くその腕に抱きしめる。

言葉になりきれない気持ちも、ケイとチカに届くように。


「不甲斐なくてごめん。いろいろ、ありがとう」


ケイとチカの耳にこの声は届いただろうか?

届いて欲しい、とトウタは思う。

そのまま固まっていたケイとチカは、一瞬肩をぴくっとさせたが、すぐにくすくすと笑う。


「どうってことないよ」


「まぁ、苦労はさせられたがな」


無邪気にいうチカと、少し皮肉を感じられるケイの言葉。

それでも、とトウタ言う。


「この世界を守ってくれなかったら、僕はショウとヒカリに出会えなかったよ」


何を失ったのか分からなかったトウタの穴を、確かに埋めてくれたのはこの二人だった。

その二人を生きる世界を、守り続けてくれたのはケイとチカがあってこそなのだ。


「まぁ、その話は良しとしてこの後どうするか、だな」


照れを隠すようにケイがそっぽを向き、上を向いたまま言う。

チカはそんなケイを楽しそうに見つめている。

トウタは僅かに思案しながら、顎に手を当てた。


「多分だけど、全部知られてるんじゃないかな。サクラとの記憶を取り戻したことも、こうして接触してることも」


この世界を管理、という名の元で支配している人物。──ハカゼのことだ。

今は接触してこないが、この世界のことは全て知っていて、掌握しているのはトウタも分かっていた。


記憶がある時のことをトウタは覚えている。AIである自分たちを管理しているのは知っていたし、この世界のプログラムをしたのだと教えられていた。


「あの人は、想定外のことが起きるのを嫌う。このことはあの人の予想だにしてなかったことだろうから、あっちて憤慨してるんじゃないか」


やや投げやり気味にケイが言う。少し吹っ切れたようにみえるのは、トウタの気のせいだろうか。

晴れ晴れとは言えないまでも、憑き物が落ちたような表情は、ケイ本来のもののように見える。


「かもね、お父さん、怒ると怖いから」


ははは、と小さく声を上げて白い歯を見せるチカは同意する。

チカの様子だけを見るとあまり怖そうには見えないかった。


「その、お父さん? って人はどこに行ったら会えるんだ?」


「そうそう。そんなことするらしいのに気配ないよ」


いつの間にかショウとヒカリが立ち上がって、トウタのそばに立っていた。

どうやら、話を聞きながら辺りの警戒をしてくれていたらしい。

当たりを見回し警戒を緩めずにいる二人にサクラが答える。


「きっと、海の向こうだよ」


「え、あの凍ってる……?」


「そう。あの海の向こうは……管理者の空間なの」


────────────

トウタの目の前に、凍った海は果てしなく続いていた。

少し離れた凍った海の上にケイとチカが立っている。トウタはヒカリとショウと一緒に、陸地で忘れ物をしたという桜を待っていた。


トウタは視線を遠くに向ける。白く霞んだ建物は工業地帯の跡地を模していると今は分かる。


けれど、記憶が無い状態だったら、本物の工業地帯の跡地だろうと勘違いしたままだろうとトウタは思った。


この空間の中では、現実世界を参考に仮想空間で再現している。

本物と見まごう出来に、ショウとヒカリは感心していた。


「本当、ここがデータ上の世界だなんて信じられないわ」


ヒカリは足元の氷の塊に触れる。

トウタも習って氷に触れると、芯まで冷えるような冷たさが手を通して伝わる。


仮想空間では痛み、匂い、空腹など五感は失われないようになっている。

全ては、仮想空間を現実と勘違いさせるために。


「信じられないけど、刺されたサクラさんがピンピンしてるのを見せられるとね……。信じざるを得ないというか……」


はぁ、とヒカリのため息は白く濁って消える。


「まぁ、何はともあれ私は管理者に一言言いたいことがあるから……乗り込んでやるけどね」


本当にやらかしかねないヒカリの物言いに、ショウも頷く。


「それに、トウタのこともな……」


ショウが濁した言葉の先を、トウタは分かっていた。


(僕が、人間じゃないことを問い詰めたいのかな……)


それだけが、トウタは気がかりだった。本当にどう思われているのか、人間ではないことを気持ち悪がられたら……と思うとトウタの胸は張り裂けそうで、聞くに聞けなかった。


その内に、サクラがお待たせと言って駆けてくる。


「ショウ、ヒカリ、トウタ、行くぞ」


ケイがトウタたちの名前を呼ぶ。


「あぁ」


「今行くよー」


呼ばれたショウとヒカリはケイとチカの元へ歩いていく。


そして、二人に聞けないまま、トウタはただ立ち尽くしていた。






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