言葉が出てこない
「うっ…………今の…………は……」
眩い白い光が徐々に消え、視界が戻っていく。手のひらさえも見えない暗闇ではなく、商業施設のあの丸いステージのような場所だ。
「サクラ……」
サクラの胸に突き刺さった刀をトウタゆっくりと引き抜く。
出来るだけサクラに苦痛を与えないようにしたかった。
それでも、サクラはずるりと抜けていく刃を見て苦痛に顔を歪めた。
サクラの胸から血を吹き出すことはなく、ただぽっかりと小さな穴がすぐに塞がる。
それが、サクラが人間ではないと証明しているようだった。
「ごめん……ごめん……」
痛みを与えたかった訳ではなかった。ただ、トウタはサクラを止めたかった。
殺し合いなんてしたくない。出来れば、向き合って話がしたかったのだ。
そしてトウタが望んだとおり、サクラの動きは止まった。これなら話が出来るかもしれない。
やっと、触れられる位置にサクラがいることに少なからずトウタは喜びを感じていた。
「サクラ……僕は……」
口を開いたもののトウタは何から話せばいいのか分からなかった。
言いたいこと、話したいことがたくさんあったのに言葉が出てこない。
「大丈夫、大丈夫よ、トウタ」
俯くトウタに、サクラは思い出の中と同じように優しく声をかけてくれる。
それが、どうにも痛くて、懐かしくて、嬉しい。恋焦がれるってこう言うことなのかと思わせるほどに、トウタの胸は震えた。
「私たち、戻って……来れたの……?」
徐々に意識がはっきりしてきたのであろうヒカリが、ぽそりと言葉をこぼす。
「そうだよ。大丈夫? 何か変化は無い?」
呆けていたヒカリの元に、サクラがゆっくり歩み寄る。その場にしゃがみ込んでヒカリになにか変化は無いかと確認し、直ぐさまショウの様子も見る。
「うん、大丈夫そうね。……トウタは、平気よね」
「うん、何ともないよ」
幾度となく場面が切り替わる幻のようなこの現象に、トウタはもう不思議がることはなかった。
ここは仮想空間。現実の常識は通用しない。
しないからこその空間移動なのだ。
全てを思い出したトウタは、やっと失くしたものを見つけた。
ケイがこの世界を、トウタを守るために奪った記憶はもうトウタの中にある。
「今のはなんだ……」
「ここは仮想空間、ひとつのネットワークで繋がってる。俺たちも例外じゃない」
ヒカリに寄り添っていたショウが呟くように零す言葉にケイは答える。
顔を合わせたショウとヒカリは、ケイの言葉を黙ったまま、静かに受け入れているようだ。
さらに、ケイは続ける。
「この空間で起こったことは、ひとつにまとめられて情報として保管されてる。恐らく、白い光の中でお互いの意識が統合されて、同じ記憶を見てた」
「てことは、全て事実なの……?」
黙っていたヒカリが、まさか、と言ったふうに言う。
「全部、本当、だよ。私たちの身に起こったこと全て」
「そんな……」
ヒカリは絶句して口を閉ざす。
トウタだって、信じたくはなかった。あの時も、今もだ。
だけど、自分のやってしまったことは覚えているし、消えない。
ケイに背負わせたことだって、トウタは忘れてはいけないことなのだろう。
「ごめん、ケイ……僕、全部忘れてた……。君に、それにチカにも怖い思いさせたね」
世界が壊れるかもしれない、と言う恐怖。
自分たちの役目を忘れ、振りかざした力。
その言葉を聞いて、ケイはグッと唇を噛み締める。
「…………俺たちは……言いつけられたことを遂行しただけのことだ……! 」
必死に吐き出す声は、喉の奥でつっかえるように途切れ途切れだ。
ケイたちは役目を守っただけのことだと、大それたものじゃないと首を振る。
「俺は……あんなこと……」
ケイに滲むのは後悔の念。それが痛いほど伝わってくる。
やりたくもない事だったのだろう。人の記憶を奪うなんて。
その痛みは、トウタにはわからない。恐らく、ショウもヒカリも。
分かるのは当事者のケイとチカだけだろう。
だからこそ、解放出来るのはトウタ自身しかいないと思った。
こうして、生きる世界を守ってくれたのだから。




