打ち合い
「よし、やってみるか」
「えっ……っつ!?」
「おお、反応は良さそうだな」
トウタが鞘に収めようかとした瞬間、ショウが身を低くして斬りかかってきたのだ。
いつの間にか握った短刀が、目の前を掠めていく。
「な、何!?」
驚いた声を上げるトウタに、ショウは少し距離を取りナイフをくるくる回した。
その動きはさながら手品師のようだった。
「いや、せっかく刀抜いたしトウタの実力を測ろうかと思って……!」
そう言い終わる前にショウは再び、トウタの懐に入る。思わず身を引いたトウタの首元に、きらりと等身が光る。
ショウの身のこなしは慣れそのものだった。
おそらく何度も激戦をくぐりぬけてきたのだろう。荒削りのようではあるが、人を一撃で仕留めると言った点では抜きん出ているように感じた。
守りで慎重に生きてきたトウタとは違い、攻めで大胆にショウは生きてきたように思える。
おそらくきっと、ヒカリとそうして生きてきたのだ。
「うーん、やっぱりすぐに実践はダメだなぁ。これから教えられるところは教えるから頑張ろうな」
短刀を仕舞い、尻もちをついて呆気にとられていたトウタの腕を掴み力任せに引かれる。
その反動でよろめきながら、トウタは立ち上がった。
「酷いよ。まぁ、仕方ないかもしれないけど」
確かに、実力を知るにはこうする他は無かったのかもしれないが。
びりびり痛む手を摩り、トウタは刀を鞘に収める。
「ごめんな、でもなかなか筋が良さそうだって分かったよ」
「それは……良かったけど……」
いいのか悪いのか、ショウに褒められたトウタは曖昧に笑った。
「ぁぁ、ごめん、やり過ぎた。大丈夫か」
「何とかね。でも、やるなら声掛けて」
「次からはそうする……」
淡々と話すトウタに、ショウは少し身を縮めながら答えた。
──────
頭上には満点の星空が広がる。
昔は地上の明るさで星なんて見えなかった。
だけど今は、明かりを灯す人間はおらず空の光は星たちと月によって照らされている。
昼に比べて夜はさらに冷え込む。
ひとつの焚き火を囲み、トウタとショウは静かに夜を過ごしていた。
夕食といえば缶詰が主だ。
温めるだけで美味しく食べられる。それに、長期保存可能。その利便性が今はとても有難かった。
「ねぇ、ヒカリってショウの幼なじみなんだよね。どんな人?」
そう、トウタは問いかける。
純粋にどんな人か知りたかった。
ショウが大切にしている人を。
トウタはまた無意識に右手を誰かの手を探すようにさ迷わせた。そこに、誰かの手を。
自分の中にある虚しさの答えを探すように。