おなじもの
ケイの耳に、耳が痛いほどの警報音が鳴り響く。それは隣にいるチカも同じだったらしく、小さな手で両耳を塞いでいた。
トウタの手には青白く光る刀。一際強く光るその刀を、地面に振り下ろし力任せに突き刺していた。
「やめろ! その刀は……!!」
手が届かないと分かっていても、ケイは手を伸ばす。
あの刀はAIたちに持たされた、特別なものだ。プログラムを読み、不必要であれば消す。仮想空間での秩序を守るために持たされた。
その刃を、プログラムであるこの空間に刺したりしたら、タダでは済まないことをケイは分かっていた。
現に、突き刺した地面に稲光のように青白い光の亀裂が走る。
「いやっ…………!」
チカが、悲鳴をあげてケイに縋り付く。
空間は揺らいで、崩壊していくのをただただケイは見ていることしか出来なかった。空間が大きく震え、立っていられない。圧縮されそうな空間の縮小がケイを飲み込もうとしている。
足元に巨大な穴。更に下には、微弱な電気が走る全てを飲み込まんとする空間が広がる。
「このままだと、ここが持たない……!」
それは、この仮想空間自体の崩壊を意味する。
この空間が崩壊したら全てが水の泡だ。この仮想空間に繋がっている人間も、AIであるトウタ、チカ、そしてケイ自身も無になる。
(怖い……!)
初めて、ケイは恐怖を覚えた。
消え去るという恐怖。存在が消えるという初めての恐怖が忍び寄ってくる足音が迫って来たことを。
どうにか出来ないかと、全ての権限を駆使してもケイには解決方法が一つしか思いつかなかった。
監視する役目を持っていたケイだとしても、それだけだ。ただ、見守るという役目を持たされただけの自分に、空間は補修は出来ない。
けれど、ケイにも同じ青白ク光る刀を持たされている。
目を閉じて震える姿に、ケイはそっと抱きしめる。
白い空間の中、トウタだけが一人叫んでいる。
その叫びは、プログラムされたAIのものではなく、人として……生きているものの叫びそのものにケイは聞こえた。
愛おしそうに、痛々しくサクラの名を呼ぶトウタを少し羨ましい、と思ってしまった。
自分たちとは違う、自由に人のように振る舞うトウタが、出来てしまうことが。
隣にいるチカも同じだ。簡単にはプログラムされたことを越えられない。
そうだったはずなのに、とケイはチカの肩をゆっくりと離した。
消え去る今なら、自分も叫んでもいいのにとケイは悪態を付く。
なのに、なにも言葉が浮かんでこない。意思が、湧いてこない。自分の、言葉が浮かんでこない。
それが出来ない時点で、自分は人間じゃないとケイは思い知らされた。
出てくるのは、この空間の維持。ケイの口から出てくるのは、プログラムされた役目のための言葉だけだった。
「お願いだ、トウタ、止めて、止めてくれ……!!!!」
ケイの喉から発せられた血の滲むような叫び。何度も何度も、トウタに届かないとしても。届くまで何度も叫ぶ。
「お願いだ、頼むから、兄さん……!」
空間の崩壊は止められずとも。自分たちよりも早く作られたAIであるトウタを止める。
自分の兄とも呼べるそのAIが持っていた刀と、同じものを持っているから。
ケイは、ぎゅ、と柄を決意と共に握りしめた。
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気がつけばもう少しでこの小説は終わりそうです。
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