無くしたもの
カキン、と甲高い金属の交わる音がトウタの耳を通り過ぎる。
トウタの刃はサクラの刃を弾き、背後に回転しながら飛んで地面に突き刺さった。
「…………!」
サクラは笑っていた。トウタの刃が目前に迫る中で。
(止まれない…………!!)
トウタが振り下げた刃は、サクラを切り裂いた。肉を断ち切る重い感覚が手を伝わってくる。
訪れた静寂が、トウタには痛かった。無意識に閉じていた目を開く。サクラの息遣いがすぐ近くに感じる。鼻が触れそうな距離。
「なん、で……」
トウタの刃はサクラの胸を貫通していた。青白い光が、一際煌めく。
まるでサクラの力を吸っているかのように。
カタカタとトウタの手の震えが刃に伝わって音をたてた。
サクラがトウタだけに届く小さな声で笑う。
「トウタ、ありがとう……。これでやっと止まれる。これでよかったの」
だから、気に病まないでねとサクラは再び笑うと、トウタの肩に頭を預けてきた。
その身体を、トウタが抱きしめるとトウタとサクラを繋ぐ刀が強い光を発した。
それは辺りを完全に包み込み、世界を光で満たした。
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「……トウタ!」
どこからか、声がする。はっきりと聞こえる、自分を呼ぶ声にトウタは目を開いた。
「大丈夫? なんか、魘されてたよ」
視界いっぱいに広がる、サクラの心配そうな顔。
「さ、サクラ……?」
えっ!? と飛び起きたトウタに、サクラは更にくすくすと肩を震わせて笑い始めた。
「変なの。どうしたの? 何かおかしいことがあった?」
なおもくすくす笑うサクラに、トウタは惚ける。こんなにも優しい顔をしていた、と。
「君は、そうやっていつも笑いかけてくれてたんだよね……」
無くしていたトウタの記憶が、サクラを刀を通して蘇ってきた。
「やっと、無くしたものを見つけた」
そう呟くトウタに、サクラは今度は首を傾げた。
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「トウタ! 今日は、星が綺麗だよ!」
ある日は、サクラが星空を指さした。
その先に広がる無数の星が、きらりきらりと瞬いて綺麗だ。
(サクラと一緒だから……)
きっと、君と見てるからとトウタは思う。
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「はい、トウタ。今日のご飯!」
並べられた少量の缶詰をサクラはどれにしようかなと、迷いながら選んでいる。
そんな姿をトウタは遠巻きに眺める。選ぼうとしているサクラを、羨ましく思いながら。
「これは全部、サクラのだよ」
「…………」
サクラの指先が、僅かに跳ねる。
驚きの表情でこちらを見たサクラは、悲しそうに眉を下げた。
「それは、トウタが人間じゃないから……そう言ってるの?」
トウタはひとつ頷く。トウタは忘れていた、ずっと。
自分か人間では最早なく、生きてすらいないことを。




