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ここからでていこうとしないで

トウタの視線の先には、下へ続く階段がある。そこをくだり切ると、天井から差し込む光がスポットライトのように円形状に当たっていた。

まるでステージのようになったその中心に、少女──チカの姿があった。


チカは天井を見上げ、太陽の光を一身に浴びている。

しかし、不意にチカがトウタたちの方を向いた。


「そこに居るのは分かってるよ」


ふふふ、といつも通りの無邪気な笑顔を浮かべてこちらをチカは見ていた。


トウタは観念し、ショウの静止を振り切ってチカの前に姿を晒す。

チカが何を企み、トウタの前に姿を現したのかは分からないが、隠れていても何も始まらない。

トウタは危険を承知で罠に飛び込む。


「あれ? すごい素直だね。そこにいるおふたりさんも出てきたら?」


チカの声が、建物に反響する。

トウタは小さく振り返り、ショウとヒカリにうなづいた。


仕方ないな、というふうにショウは肩を竦める。ヒカリも小さく頷き返してくる。

するり、とショウとヒカリも立ち上がり、トウタの横に立った。


「やっぱり、みんなで行動してたんだ。まぁ、いいけど」


「………………何しに来たの」


あっけらかんと自分たちがしたことを忘れたかのように話すチカに、一歩前へ出たトウタは言う。

警戒を滲ませ、出来るだけ感情を抑えた声に、まさか自分がこんな声が出せるのか、とトウタは思ったほどだ。


「そんなに警戒しなくても、何もしないよ。ただ、忘れて欲しくないことを言いに来ただけ」


そういって俯くチカの表情がみるみる曇る。

影を帯び、無邪気さは一切取り払われた無機質な顔にトウタは息を飲む。


この子は、こんな表情が出来たのかと。


「これは警告、と言うよりお願いかな。私たちからの、お願い」


トウタとは目線を合わせず、地面を見つめたままチカは小さい声で囁く。


「ここから出ていこうとしないで。この場所で生きる術を探して。それを守ってくれさえすれば、私たちは何もしないで済むから」


お願い、と言ったチカの声は震えていた。チカの澄んだ瞳からぽろぽろと涙が零れ落ちている。

その姿にトウタはぎょっとして、目を見開く。あれほどまでに余裕を見せていたチカが、ここまで弱い姿を曝け出すとはどういうことだ。

トウタは混乱し、言葉に詰まる。


「トウタ、今サクラに会いたいって思っているでしょう? ここを出て探しに行きたいって思っているでしょう?」


何も言えないトウタに、言葉を紡ぎながら強い口調でチカは詰め寄ってくる。

それはまるでトウタの心の中をお見通しと言わんばかりに、抉ってくる。


「…………なんで、分かるの」


それはやっとトウタが言えた言葉だった。必死に絞り出したその言葉に、チカは顔を歪めた。

恐ろしい程に酷く傷ついた顔に、ますますトウタは分からなくなる。


なんで、彼女はこんな顔をするのだろう?

どうして自分を気遣うような素振りを見せるのだろう。


分からなくなってトウタはその場に立ち尽くした。





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