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長くいられますように


なんだ、と桟橋に座るトウタとショウの姿を見て笑みが零れた。

トウタの姿が見えなくなって、焦っていたヒカリは相棒──ショウと共にいる姿を見てほっと胸を撫で下ろした。


ヒカリはトウタが起き出したことに気づいてい た。薄目でトウタの顔を見た時、軽率に声をかけようとして止めてしまったのだ。


というよりも、ヒカリは声を掛けられなかった。

あまりにも、悲しそうでいて泣きそうだったからだ。涙は出ていなかったものの、少しでも触れてしまったらすべてが溢れ出しそうな、壊れてしまいそうな危うさにヒカリはどうしたらいいか分からなかった。


戸惑っているうちに、トウタが静かに立ち上がり居なくなる。

後を追いかけようとすると、ヒカリと同じように起きていたらしいショウが、ヒカリを片手で制した。


自分が行く、と言いたいらしいと汲み取ったヒカリはショウの背中を見送ったのだ。

暫くその場に留まってふたりが帰ってくるのを、ヒカリは待っていた。


自分はまだトウタに出会って間もないし、そこまでトウタを知っているわけではない。

けれど、ショウは違う。ヒカリを助けるまで紆余曲折があって、二人は相棒らしくなっていた。


仲の良さは傍から見ていたヒカリにも分かった。


(私とは違う、楽しそうな顔をするんだよな)


トウタとじゃれ合うショウの姿を光は思い浮かべる。女である自分と接する時とは全然違う、年相応の男の子、と言ったショウはヒカリにとって新鮮だった。


ヒカリにはそれがたまらなく嬉しかった。


(いつもは、気を張ってる気がして心配だったけど……和らいで見えるから)


お互いがお互いを思いやれる関係を見守りたいとヒカリは思っている。

ショウにとってトウタはなくてはならない人だから。


「遅いなあ」


トウタとショウ出ていってから、空の色は明るさを取り戻し青空が広がる頃、痺れを切らしたヒカリは立ち上がった。


分厚いコートを着、長い髪を軽く手櫛で整えるとトウタとショウを探した。

ばりばり、と歩く度に氷の結晶が崩れ落ちる。

強い風に雪は舞い上がり、キラキラと星のように輝いていた。


その雪煙の向こう、桟橋の端で二人仲良く肩を組んでいる姿が光の目に飛び込んできた。

離れているため会話こそ聞こえないが、何やら上手くことは運んだようで、ヒカリはそっと笑みを浮かべる。

優しい眼差しで、ヒカリは二人を見つめる。


「なんだ、トウタもじゃん」


トウタも同じように、穏やかな笑みを浮かべている。

寂しそうな顔は、もうなくてヒカリは少し羨ましい気持ちになった。

寂しさを押し込めて強くあろうとするトウタに、その強がりに気づいて何とかしてしまうショウに。


(私の出番なんて、ないのね)


あーあ、と天を仰ぐヒカリはひとつよし、と小さく声を出した。

自分自身を鼓舞するために。


「トウター! ショウ! ご飯だよー!」


桟橋の入口から叫ぶと、トウタとショウは少し驚いたように小さく跳ねてヒカリを見た。

ヒカリは手を大きく振って答える。


「わかったー! 今行くー!」


トウタも手を振り返し立ち上がると、ショウに手を差し出した。

ショウは迷うことなくその手をとって立ち上がると、ヒカリの元に駆けてくる。


少し遅れてトウタも続く。


そして、ヒカリは願う。

少しでも長くいられますように、と。

みんなで穏やかに過ごす日々が、どうか続きますようにと。


崩壊する世界で、ただヒカリはそう願った。



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