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朝焼けの中で

力無く項垂れたチカが、はぁと深いため息を吐いた。浮かぶ笑顔は和らいでいた。無理やり笑ってみせるのは、いつもケイに少しでも和らいで欲しいというチカなりの気遣いにも感じられた。


その顔を見て、ケイも力が抜けた。やっと息を吸える心地がして、ひとつ大きな伸びをした。


「お父さん、機嫌悪かったね。トウタのこと、気になるのかな……?」


「……たぶんな」


そう、トウタは昔、ある目的を揺るがす事件を起こしている。三度みたび、それを起こされてはならないと、ハカゼは躍起になっているのだ。

ケイだって、それは同じだけれど弟として思わないことは無い。

少し、同情さえ覚えるほどに情はあるつもりだった。


「また、繰り返さなければいいけどな」


ケイの小さな希望だった。

何事もなければいい。そう願わずにはいられない。トウタに行った行為を、再び繰り返したくないと言う、願い。


(願わくば……)


その先をケイは願う。

形にも言葉にも出来ないが、心の中でせめてと祈る。

この世界で、何かを見つけて欲しい。

大事なものを。本当の願いを。

どこにも行けない自分たちの、代わりに。



────────────


朝焼けがガラス越しに目に入る。寝起きの目には優しくない光の強さに、トウタは目を細めた。

未だしゃっきりとはしない頭を動かして、ショウとヒカリを見る。


二人はまだ夢の中のようだ。体を守るように丸めて、思い思いに眠っている。

ヒカリはカバンを枕に床で眠り、一方ショウは壁に背を預けて目を閉じている。


トウタは二人を起こさないようにそっと体を起こす。ベッドや布団で眠っていないせいで、体のあちこちが痛い。痛む体を無理やり動かすと、節々が音を鳴らした。

でも眠れないよりかはマシだ、とトウタは自分に言い聞かせた。


体を起こし、ゆっくりと立ち上がるとコートを着直して船着場を出た。

外の空気はとても冷たい。襟元を通して空気を吸い込むが肺に入る冷たさが身に染みる。


思わず身震いがして、耐えるために目を閉じる。段々肺がその冷たさに慣れてきた頃、桟橋の端にたどり着いた。


水平線の向こうに大型の船が霞んで見える。あれは輸送船だろうか?

かつては海を渡り、他の地域、国を回っていたのだろうか?


そんなことにトウタ思いを馳せる。他の国がどうなっているのかは、トウタは知らない。通技術が根絶している今、知りようがない。

恐らく他の国も、ここと似たようなものだろう。


(だけど、なんだか気になるんだよな)


ちり、と胸の奥で何かが焼け付くような感覚に、トウタは襲われる。

脳裏に見覚えのない残像が蘇るようにしては、消えていく。緑豊かな山、静かに凪ぐ青い海。そこに立つ、サクラが……泣いている姿。

白い頬にとめどない涙の粒が流れている。その唇が何か言葉を紡いでいる。

けれど、その言葉はもはやトウタには届かなかった。


(僕は地の果てを、何を見たんだ?)


胸に手を当てて、トウタ自身に問いかけた。

返ってくる明確な答えなど、ありはしないと分かっていながら、問いかけざるを得なかった。

サクラが泣いている理由すらも分からない。それすらも、思い出せないなんて……。


「僕は、本当に空っぽなんだな」


思えば、トウタ自身に何がある訳でもなかった。記憶もなく、隣にいる相棒【パートナー】もいない。


(君に、サクラに会いたい。会って、今度こそ話がしたい)


無いものばかりだと、最近になって気付かされた。

ショウとヒカリに出会い、トウタの全てが変わった。


はー、と長く吐いた息が風に流されて儚く消える。

響く音は僅かな海の悲鳴だけ。

そんな世界に一人、トウタは取り残された気分に陥っていた。


「誰が、空っぽだって?」


からかうような、それでいて真剣な声がトウタの耳に届く。


「ショウ……」


トウタが振り向くと、気配も音もなくショウが朝焼けに照らされて立っていた。

手をポケットに入れて、少し気だるそうなそんな雰囲気を纏って。



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