似て非なる存在
「計画は、順調か。なにか進展は」
無機質な声をかける父親──ハカゼの声は、ケイたちを思いやる温かさなど持ち合わせていなかった。相手を思いやることなど忘れてしまっている声だ。
相変わらずだ、とケイは心の中で吐き捨てる。表情にはおくびにも出さず、淡々とハカゼの言葉に耳を傾ける。
「いえ、まだです。ここの所は停滞していまして」
「申し訳ありません、お父さん」
父親、と言っても砕けた口調などケイは使えなず、親子と言う関係を思わせずに言葉を返す。もちろんチカも例外ではない。
目下ハカゼと言葉を交わす際は、いつも丁寧さが求められた。
そうでもしないと、ハカゼの機嫌はみるみる悪くなるのは目に見えている。
痛いほど知っているケイとチカは細心の注意を払っていた。
子供たちにそんな思いをさせているとは露ほども知らないであろうハカゼは、あからさまに大きなため息を吐いた。
「どうもここの所、お前たちの働きが鈍っているようだな。何かほかの手を考えなくては行けないのか」
ごくり、とケイは生唾を飲み込んだ。嫌な予感しかしない。
ハカゼが思いつくことと言えば、自分たちに被害が被ることしか無かった。
最悪、自分たちの存在が消される。それは存在自体か、人格──記憶の方か。
ケイはそれだけは避けたかった。大事な大事な記憶だ。それが作られた、本物でないとしても。
「すみません、善処します。お許しを……」
ケイは画面の向こうのハカゼに向かって頭を下げた。続けてチカも頭を下げる。
ケイの顎から一筋の汗が落ちた。
「いい、頭を上げろ。そんなことをされても事態は変わらない。そこまで言う前に、行動で示せ」
ケイとチカは震えながら下げた頭をゆっくりと上げた。
画面の向こうのハカゼは子供に頭を下げられても、なんとも思わないのだろうか。
腕を組み威圧的な態度を一切崩さなかった。
「それから、トウタがまた動きだしたみたいだが?」
「は、はい。なんの因果かショウとヒカリと言う人間と共に行動しています」
トウタの名を聞き、内心ケイは焦りを覚えた。
トウタの昔のことを思い出し、あの光景を思い出す。
それはケイにとって、忘れたい記憶のひとつだった。もしかしたら、自分も同じ末路を辿っていくかもしれないから。
ケイはトウタのことを何も思わないわけではない。むしろ……気にかけているのだ。
「そちらにもちゃんと目を光らせておくように」
「しかし、トウタは記憶がありません。そこまで気にすることでは……」
「口答えするな」
ちょっとしたケイの提案ですらも、ハカゼはバッサリと切り捨てる。
いいかけた言葉をぐ、とケイは飲み込むしか無かった。
「私の子供は私に口答えしない。そんなことはしない」
はい、と言い終わる前にハカゼの通信は切れた。ざぁっ、と言う砂嵐の音だけが部屋を満たしていく。
すぐ側に立っていたチカは、力無くその場に崩れ落ちて座り込んだ。
ケイもどっと力が抜け、椅子に体を預けた。
この虚しさを感じる心も作られたものでも、やっぱり自分は人間と同じものだ。
ただ虚しさだけが心に広がって、この虚しさをひとりで感じずにいなくてよかったとケイは思った。
チカがいてくれて本当によかった、と。




