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誰かの存在

「………………」


トウタを含め、誰も何も言わなかった。いや、言えなかった。

トウタたちの力ではこれ以上、どうすることも出来ない。最後まで責任を取ることは出来ないと、理解していた。


だから、言える言葉もない。


「…………行こう」


ショウが一言呟いて、シャッターをくぐりその後をヒカリが追いかける。

トウタは後ろ髪を引かれる思いで歩き出す。

振り返ってしまえばもう動けない気がしたから、一度も振り返らなかった。


結局トウタも、ショウもヒカリも何も言わなかった。無言のままその場を去り、黙々と歩き続けた。

地下道を抜け地上へと戻ると、強い風に煽られた冷気が三人を包んだ。


空には澄んだ星空が広がり、きらきらと瞬いてる。今宵は満月だ。

優しい光はまるで微笑んでいるようだったが、トウタはその優しさが痛かった。


トウタの吐く息は白く風に乗りすぐに消える。

露出は出来るだけ抑えているが、顔はどうしようもなく凍っていくのが分かる。


ちらりと見たショウとヒカリの横顔も、真っ赤に凍てついて赤く染まっていた。


「綺麗な、星ね」


空を見上げたヒカリが目を細めて呟く。トウタにはまるで祈っているようにも見えた。


「そうだね。すごく、きれいだ」


トウタも習って空を見上げる。祈るとするならば老夫婦のことだった。

あの微笑むこと以外何も出来なくなってしまた二人の行く末がどんな物か想像に固くない。


だからと言ってトウタに何ができるか、と言われたら何も出来ない位に等しい。

最後まで看取る覚悟が出来ないのであれば、手を出せない。出すべきじゃない。


終わりかけた世界であの二人を養っていくなんて到底不可能なのだから。


「きっとあれしか無かったんだ」


誰にも聞こえない声でトウタはそっと呟く。誰かに聞かせる訳ではなく、自分に言い聞かせる為に。


とうとう海風を感じる公園にまでたどり着いたトウタたちはゆっくりと立ち止まった。

海風と言っても海は全て凍りついている。時たま波の影響か流氷同士が擦れ合う、何か動物の鳴き声のような音だけが響いていた。


「とりあえずあそこで夜を明かそう」


トウタはかつて船着場の待合室であった小さな建物を指さした。

こんな厳しい夜に外で野宿なんて自殺行為だ。


それに今は誰かの温もりと存在を感じていたかった。




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