手伝わせて
トウタを襲ってきた少年は、ショウと名乗った。あれだけ殺気を漏らしていたショウは、すっかり毒毛を抜かれトウタの手の手当をしていた。
トウタの手は一文字にばっくり裂かれ、目を背けたくなるほど深い。
ショウは一瞬眉をひそめ躊躇いを見せた。
どうやら罪悪感を感じているらしい。
そっと、トウタの手を包み込みながら包帯を巻く。
「すまない、俺……」
「いいよ、それよりも話聞かせて? ヒカリってショウの大切な人?」
「あぁ、そうだ。俺の、相棒だよ。ヒカリは幼なじみなんだ」
(幼なじみ……そっか)
この世界にはひとつの掟が存在する。それはひとりでの行動を禁じている、という事だ。
必ず、二人一組で行動しお互いが支え合う。それは、いつからか決まっていた掟であり、周知の事実だった。
相棒は誰だっていい。
それは親子であったり、恋人であったり。様々な形がある。
たたひとつ言えるのは、とても強い繋がりがある、ただそれだけだ。
ショウにとって、ヒカリはそれくらい大事、という事なのだろう。
だからこそ、ヒカリが奪われたあの時、取り乱し襲いかかってきたのだろうと理解できる。
「そっか、そのヒカリはこの黒服に連れてかれたの?」
「あぁ、そうだ。急に襲いかかってきて……何か言ってた……。俺は応戦して、ヒカリと逃げようとしたのに、敵わなかった」
手当を終えたショウが苦々しい表情で頭を抱える。
「でも思い出せないんだ。何か、大切なことを言ってたはずなのに。」
ヒカリを奪われた瞬間を思い出そうとしているショウは、唇を血が出るほどかみ締める。
そこまでして必死になって思い出そうとしているのは、ヒカリのためなのだろう。
大切な、ヒカリを助けるために。
トウタは無意識に右手を動かした。
そこに空虚があるだけなのに、誰かの手を探して握ろうとしたのだ。
それに気づき、トウタは後ろを振り返る。もちろんそこには誰もいない。
「どうした? トウタの相棒が帰ってきたのか?」
「いや、違う。僕には相棒はいないから」
は? とショウは目を見開く。それはそうだろう。この世界で生きるためには、相棒が必ず必須だ。ひとりでこの世界を生き抜くには、辛すぎるから。
「だけど、僕一人だよ」
トウタは行き場を失った右手をギュッと握りしめる。まるで、そこに誰かがいるかのように。
「ねぇ、ショウ。僕にも手伝わせてくれないかな。ヒカリを助けるのを」