長い眠りからの目覚め
トウタたちの沈黙を破るように、うぅうん、とショウの背後からうめく声が聞こえる。
どうやらヒカリの意識が戻りかけているらしい。
「ひ、ヒカリ!」
慌てたショウを手で制して、トウタはヒカリを覗き込む。
長く伸びた黒い前髪から薄ら開いた瞳が見えた。
いまだ光を反射しない黒い眼が、ぼんやりとトウタを捉えた。
棘のように刺さった違和感は消えぬまま、トウタはヒカリにゆっくりと笑いかけた。
「えっと、気分はどうですか?」
長い眠りから覚めたヒカリの身を案じながら声をかける。
ヒカリはこの状況を一切把握していないのだ。混乱を招くのは分かっていたから、少しでも安心して欲しい一心だった。
ヒカリはトウタの問いに答えぬまま、自分の手のひらを見つめる。
感触を確かめるように、開いたり閉じたりを繰り返す。どこか違和感があるのだろうか、何度も何度も。
やがて自分の置かれた状況を把握するためか、辺りをキョロキョロと見回す。
薄暗い室内はヒカリにどう見えているのだろう。夢の中だと思うのか、最悪な現実だと思うのか。
トウタには判断できなかった。
「ここは……? あなたは……だれ?」
少しづつ意識がはっきりしてきたのか、ヒカリはトウタに問いかける。
声は存外しっかりしていている。目は段々開き、彼女本来の力強さを取り戻すようだった。
トウタもここでやっと肩の力が抜けた。
「僕はトウタっていいます。ショウと一緒に貴方を助けに来ました」
「ヒカリ、俺が分かるか」
ショウに声を掛けられてヒカリはハッとする。背負われているにも関わらず、その身を起こした。
ヒカリの豊かな長い髪が主の心の内を表すように、大きく揺れる。
「おい、急に動くな!」
ショウが予期せぬ動きによろめくが、決してヒカリを落とさなかった。
腕にぎゅっと力を込めてヒカリを支えると、少し怒ったような声をあげた。
だが、その表情はほっとしたような柔らかい笑みを浮かべて。
(よかったなぁ)
そうトウタは思った。無事に、会いたい人に再会できて。また一緒にいることが出来て。
言葉を交わすことが出来て。
誰かを守ることが出来て。
自然とトウタの顔にも笑顔が浮かぶ。
けれど、どこか胸に痛みを抱いて。




