わずかだけど確かな温もり
トウタは自分自身の記憶を、ショウの記憶を消したケイとチカを許しはしないと心に決めた。
大事なものを勝手に何の断りもなく、土足で踏み荒らしていく身勝手さに目眩がした。
断りがあったとしても、記憶を勝手に消されるのは御免だが。
記憶がなくても大事だって思えた。
サクラという少女に出会った時のように。
だったら尚更、記憶があった方が何が大事だったのか、どうして大事だったのかもっと分かるはずなのに。
それが出来ない、理由なき事柄がトウタの胸を締め付けていた。
(君は一体、僕にとって、どう大事だったの?)
そう、それは『きょうだい』の、『恋人』の、『友情』としての関係値なのか。
どこに当たるのかそれすらも分からない。
自身の胸に問いかけてみても、その答えは出ない。
だから、知りたい。
「君は、一体誰なのか」
トウタは、またサクラに会いたいと強く願う。
自分自身にとって、サクラは何か記憶の一端に、いいや中心にいることは確信があった。
きっと、サクラを追いかければなくした記憶も、孤独に苛まれる理由も全てわかる気がした。
「君に、会いたい……!」
物凄く、会いたい。
胸の中で強い衝動が生まれていた。
だから、サクラに会うためにショウとヒカリの力が必要だ。
彼らは何かケイとチカが固執した理由があるはずだ。その理由が分かればケイとチカに近ずける。
きっとそこにサクラはいる。
「ショウ、落ち着いて。ヒカリはちゃんと息をしてるよ。脈だってしっかりしてる。死んでる訳じゃない」
務めてトウタは冷静に、取り乱して泣くショウの肩に手を置いた。
ショウはぴくりと肩を震わせてトウタの顔を見た。濡れた瞳が僅かに揺れる。ショウの瞳がトウタを捉えて離さない。
トウタも一切ショウから目を逸らさ無かった。
逸らすことは絶対にしない。
「……すまん、取り乱した」
小さな声で呟いた彼は、顔を背け袖で涙を拭いた。
強く擦ったせいで目元は赤くなっているが、トウタはちらりと目を向けただけだった。
特に言葉などかけない。
「ここからとりあえず脱出しよう。ケイとチカは何かしでかしてくるとは思わないけど、あの子たちのテリトリーの可能性があるからね」
「そうだな。離れるに越したことはないだろう」
ショウの指先がヒカリの頬にかすかに触れる。
「温かい……」
そう呟いたショウの顔は安堵で僅かに緩んでいた。




