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為す術もなく

為す術もなく去っていく背を見送り、脅威の気配がなくなるとやっとトウタたちは力を抜いた。


取り残された感は否めないが、それでも一息つけるとことに安堵を見せる。

トウタは痛みに耐えながら、はぁと長い息を吐いた。


あのまま戦闘になっていたら勝ち目はなかっただろう。

むしろ、相手から引いてくれて助かったと言わずにはいられなかった。


「馬鹿、こんな怪我して。見せてみろ」


暗闇を睨みつけていたショウがトウタの近くで膝を付き頭をがしがしと撫でる。撫でるというよりも掴む、が正しいかもしれないがそれでも手つきは優しいものがあった。


「ははは、自分でもびっくりしてるよ」


激情に駆られていたとはいえ、あんな勢いで相手に向かって行けるなんてトウタ自身知らなかった。


柄にもないことをしたな、などと思っている間にショウは慣れた手つきで止血をし簡易的ではあるが持っていた洋服できつく縛りあげた。


「これでいいだろう。とりあえずはしばらく動かすな」


「分かった、ありがとう」


利き手が動かないことはかなりの痛手ではあるが、ショウを守ろうとした名誉ある傷だ。後悔は微塵もなかった。


「それよりも、ショウ。あの人は……」


「ん?……あっ………………」


トウタは手当をしてくれたショウに感謝をそこそこに、左手で台座に眠る少女を指さした。


トウタの指さす先を辿り、ショウは数秒見つめる。

みるみるショウの目が見開き、薄ら涙の膜が張っていく。


「……ひ……かり……?」


うわ言のように呟くと、引き寄せられるように歩みを進める。

その足取りは重く、立ち止まるような速さだった。


「……俺は……何のために……? あぁ、そうだ、ヒカリを探してたんだ。なんで、忘れかけてたんだ……? それよりも、なんでヒカリはここにいるんだ?」


まるで頭の中を探るようにショウは、髪を掻き毟る。


「ショウ? もしかして、忘れてたの……?」


「あぁ、なんか、自分の記憶じゃないみたいだ。なんでこんな大切なこと、忘れてたんだ?」


やがて走り出したショウは、ヒカリの元へ走るとその身体を強くゆすった。

真っ白な血の気の失せた顔で、ヒカリを呼び起こそうとするショウ。

ショウの優しく大きな手が、小刻みに震えていた。


必死に名前を呼ぶショウだったが、ヒカリは目を開かなかった。

一切反応は見せず、あるのは心音を知らせる音だけが彼女が生きているという証だった。


「嘘だろ、起きろよ。頼むよ……!」


今にも泣きそうな声が、薄暗い部屋に吸い込まれて消える。

やがて、ショウがヒカリを呼ぶ声が小さくなる。ショウはヒカリに縋るように手を握りしめる。


トウタは、その光景をじっと見ていた。


(きっと、ケイとチカがしたんだ。あの人たちは、記憶を、大事なものを忘れさせてる)


トウタはぎゅっと、拳を握りしめる。

きっとやるべき事というのは、人の記憶を改竄する非道な手の事なのだと気づく。

人の記憶に勝手に触れるなんて許されない。

誰にも権利はない。

全身の血が熱く燃え滾るように、トウタを突き動かす。


「許さない……」


トウタは小さくショウにも聞こえないように、唾を吐いた。

静かな部屋に響かないトウタの声は、トウタの胸で強く響き続けていた。

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