過ぎ行く嵐
「邪魔だなんて心外だよ」
チカが不貞腐れたように頬をふくらませて怒っていた。
まるでそんなつもりはない、といいたげだ。
「あーあ、サクラやられちゃってるや。しばらく目を覚まさないかも」
どうする? といった表情でチカはケイを見上げる。
ケイは口を固く結びしばしサクラを見下ろしたあと、大きく肩を落としながらため息をついた。
「仕方がない。ここは引こう。それに、やるべき事は終わっている」
(やるべきこと……?)
トウタはその言葉に首を傾げた。言葉からしてこの二人はショウとヒカリに何かしようとして、既に成し遂げたのだろう。
その証拠に、敵意は全く感じられない。むしろ、興味すら無さそうな雰囲気を漂わせている。
その間にもケイはサクラを軽々と背負い、チカは心配そうにサクラの顔色を伺っている。
「じゃあな、せいぜい精一杯ここで生きることだな」
そう言ってケイはサクラを背負い、チカはその後ろを追って闇に消えていく。
しん、と静まり返った部屋に取り残されたトウタとショウは唖然とする。
「なにが、したかったんだ……アイツらは」
ぽつりとショウが呟く。
トウタも同じ気持ちだった。突然現れて襲いかかってきたかと思ったら、意図も簡単にトウタたちを解放する。
(それに、生きろよって言って……あんな簡単に人を殺したのに……)
思い浮かぶのは助けられなかった老人と老女こ姿。血に塗れ虫の息だった彼らを、トウタは助けられなかったことに拳を握った。
近くにいて、歯が立たなかったのは自分のせいだと思った。
あの時、直ぐに動けたら。戸惑いなく刃を振るうことが出来たなら。
俯いたトウタの頭を、ぽんとショウの手のひらが乗せられる。そのまま、髪を混ぜられてトウタの視界はグラグラと揺れた。
「さてと……ほら、立てるか?」
ショウは一通りトウタの頭を撫で終わると立ち上がり、当たり前のように手を差し伸べてきた。
何も聞かないのだろうか。
トウタは口を開こうとしたが、その口を閉ざしてその手を取った。
何をどう言えばいいのか分からない混沌がそこにはあったが、ショウが何も言わなくていい、と言ってくれているようで有難かった。
「ありがとう、ショウ」
ショウの手を握りしめながら、トウタは口にする。それだけは伝えたかった。
「別に、何もしてねぇよ」
ショウはぷい、と横を向くがトウタの手を握るその手はとても強かった。




