抱えた憤り
彼女もまた、ショウと同じように深い眠りに落ちているようだった。
規則正しく胸が上下していることだけが生きている証だった。
二人の心音が部屋に響いていたが──違う音が重なりトウタは刀に手をやりながら急いで振り返る。
そこにあるのは闇だ。
そしてその暗がりからやって来たのは、ケイとチカだった。
ケイは険しい表情でトウタを見つめ、チカは人懐っこそうな人当たりのいい笑みを浮かべている。
対象的な二人だったが、腹の中で思っていることは見えない。
途端にトウタは唇をかみ締めた。刀を握り、刀身を顕にさせると青く光る。
トウタはショウを守るため、ショウの隣で眠る少女を守るため、覚悟を持って刀を抜いた。
あの時動けなかったから、ショウを守れなかった。
けれど、もうそれは許されない。
(やっぱり、この人たちが連れてきたのか……。今度こそ、ショウを守る……)
記憶の最後は確かにこの二人が、特にチカが手をかざしたところで終わっている。
ケイも得体がしれないが、チカの方が得体がしれないとトウタは警戒を強めた。
「トウタ起きてる。おはよう」
ある程度の距離を保ち立ち止まった二人の一人、チカがこの場にそぐわない可愛らしい声でトウタに告げる。
二人はトウタに刀を向けられているにも関わらず、気にする素振りを見せない。
それはトウタには斬られない、あるいは斬れないと思っている節がみてとれる。
余裕のないトウタとは正反対で、余裕があるようだ。場の主導権はケイとチカにあると言える。
「ショウとこの女の人をどうするつもりだ……!」
トウタはありったけの警戒と殺意を混ぜて、二人を睨みつける。
今にも飛び出して二人を制圧出来れば、と思ったが闇雲に突っ込んでもまた不可思議な技を使われても厄介だ。確実に一撃を叩き込む為に、タイミングを見計らっていると、ケイが口を開いた。
「大人しく見ててくれよ。大丈夫、別に悪いようにするつもりは無い」
抑揚の乏しい口調で淡々と言ってのけるケイ。
到底トウタは信じられない、と首を振る。
「信じられなくても、そうなんだよ。記憶は、無いかもしれないけどさ」
不貞腐れたようにチカが、床に散らばる崩れた壁の欠片を蹴り飛ばす。欠片がころころとトウタの足元まで転がってくる。
「…………もしかして、僕らは会ったことあるの? 僕の、無くした記憶に関わってるの……!?」
トウタが叫ぶ。
トウタが昔無くしてしまった記憶は、ずっとトウタを孤独にさせた。
この世界では誰もが誰かと繋がっている。それは掟としてあり続けたものだった。
だけど、その輪から逸脱するようにトウタの隣にはいつからか誰もいなかったのだ。
それが普通ではないことは、すぐに分かった。
だけど、トウタは誰と一緒にいたのか、どうして無くしてしまったのか分からなかったのだ。
分からないから、ずっと寂しくて苦しめられてきた。
それは憤りとなってトウタの心に居座っていた。憤りは消えなかった。消えずにずっと、居座って消し方も分からないまま生きてきたのだ。
その元凶が目の前にいると知れば、トウタの心はあっさり怒りの感情に染まってしまった。




