在りし日の記憶
けれど刀を持つ手は震える。
今握っているこの刀は、誰かを傷つける。
ケイとチカが、人は簡単には死なないと言った言葉はトウタには届かなかった。
届いたとしても、そんな言葉は信じられなかっただろう。
目の前にある血溜まりが、全てだと思ったからだ。
(怖い……)
自分が死ぬよりも、誰かが死ぬことが。
誰かが、傷つくことの方がずっとずっと、恐ろしい。
ふぅー、ふぅー、とトウタは息を吐き出した。
(だけど……ショウを、殺させない)
トウタはショウとケイの二人を天秤にかける。
どっちが大切か、どっちを守りたいのか、そんなこと考えることも無駄だ。
絶対に、ショウを置いて逃げるもんか。
足の動かない情けない自分を鼓舞して、トウタは低い体勢のまま飛び出して駆ける。
「なんだと……!」
反射的にケイが仰け反り、ショウから意識が逸れた。
その一瞬、ショウが血が零れる唇を、かみ締めて身を後ろに引く。
ショウを貫いていた刀が抜かれ、ぼたぼたと地面に落ちる。
うぐ、とショウは呻きよろけながらも距離をとった。
「今だ……!」
トウタは勢いを殺さずにケイに切りかかる。
横一文字に刀を振るうと、僅かに手応えがあった。見ると、ケイの頬が浅く切れて血が滲んでいる。その血はトウタの持つ刃に染み込んだ。
その時、トウタの持つ刀が青白く強く輝く。
眩い光がトウタの視界を全て覆い尽くす。
──おにいちゃん! こっちこっち!
──待て、転ぶぞ!
その光の中で、声がする。
幼い兄妹だろうか。目の前を妹と思われる少女を通り過ぎ、その背中を兄と思われる少年が通り過ぎる。
少女は白い麦わら帽子をかぶり、兄をからかうようにくるりとその場で回ってみせる。
兄はやれやれと呆れたように、肩を竦めながらも小さな妹に付き合っている。
仲睦まじい様子が伝わってくる、穏やかな光景。
──ケイ、チカ! 待ちなさい!
──勝手に行っちゃいけないよ!
振り向く二人の後ろに、男女が立っている。その姿は強い光で見えない。
そしてそこは、綺麗な青い波のないだ海。観覧車のある遊園地には老若男女様々な人々が行き交う。
そこがかつての来海駅だと気づく。
これはケイとチカの記憶だと確信するのに、時間はかからなかった。
眩しい光の中、その映像がトウタの脳裏に焼き付いた。
「今の記憶は……な……に……?」
がくん、とトウタの足から力が抜ける。
膝を付いたまま、今まさに現実に引き戻される。
「……まさかな……」
感心したようにケイが呟きながら、切れた頬をそっと指が撫でる。
感心してる場合じゃない! と眉を釣りあげたチカがトウタの前に立ち塞がった。
両手いっぱいに手を広げ、これ以上はケイを傷つけるのは許さないと言いたげだ。
「ケイ、やっぱりショウも連れてかないとダメだったよ。……誤算は、トウタが居ることだけど」
「しかたないだろう。トウタも連れていこう」




