トウタの覚悟
トウタは慌てて老人と老婆の元に駆け寄る。
お互いがお互いの血にまみれ、真っ赤になった二人は微かだが息をしていた。
しかし、呼び掛けには反応しない。
「まずいよ、どうしよう……」
手の施しようがないことは分かっていた。
だけど、トウタは何もせずにはいられない。そこにあったタオル、恐らく老人たちのものに手を伸ばし止血しようと試みる。
それが、気休めでも、手遅れだとしても。
みるみる内にトウタの手は真っ赤に染まる。
(だめだ、このままじゃ!!)
額に汗をかきながらトウタは、どうしようも無い現実に打ちひしがれる。
やっぱり、人が死ぬのは悲しい。ここから居なくなること、温もりが、なくなること。
はぁはぁ、と呼吸が荒くなる。
「だめ、いかないで。お願い……」
老人の姿に、誰かの姿が重なる。
息が苦しい。まともに息が吸えなかった。
溺れるように、空気を求めて吸い込む。
「……た、トウタ!!!」
ショウの呼び声にトウタは、ハッとする。
重ねていた誰かの面影は霧散して消える。代わりに、ショウの切羽詰まった声が響いた。
「おい、大丈夫か! 今、ほうけてる場合じゃない! しっかりしろ!」
前を見据えたまま、トウタにショウは叫んでいた。
(し、しっかりしないと)
いつの間にか守られていたことにトウタは気づいた。
立ちはだかってくれているその背中が、大きく感じる。
「ごめん、大丈夫」
面影を追いかけるのをやめて、トウタは老人から手を離す。
手に生きている感触を忘れないように、トウタは腰に差した刀に手を伸ばす。
自分を守るために、そして一番に守りたいと思うものを守るために。
刀は凶器だ。刺した場面を目の当たりにした今、恐怖が無いわけじゃない。
誰かを傷つけてしまうかもしれない。自分の手が血に塗れるかもしれない恐怖。
だけど何よりショウが死ぬかもしれないことの方が怖かった。
その嫌な光景を想像なんてしたくなかった。
(だから、僕は刀を握る……!)
静かにゆっくりとその刀の刀身を抜いた。
その刀は抜かれた瞬間に青白く光る。
すっ、と真っ直ぐな刃を相手に向けた。
初めてトウタは誰かに向けて武器を向ける。
それはトウタにとって大きな覚悟だった。




