魂に刻まれるもの
ぼんやりと浮かび上がる二人の顔は、血色があまり通っていないせいか、生気が感じられなかった。
まるで、そこに人形が座っているかのようなそんな錯覚さえ覚える。
一瞬、死の匂いが感じられてトウタは足を止めた。
しかし、ショウは怯まずにシャッターをくぐる。その背中は絶対に立ち止まらない覚悟が見えた。
トウタもそれに奮い立たされて、シャッターをくぐった。
向かい合うようにトウタとショウはあぐらをかいた。
老人は顎髭を撫でながら、楽にせいと促すがトウタたちは体の緊張を解くことは出来なかった。
ショウが老人を睨みつけて問う。
「あなたは何を知ってるんです?」
ショウの厳しい声が響く。
だが、老人は緩い姿勢を崩さず、微笑んでいる。
「なぁに、知っていると言っても儂が体験したことしか知らんよ。お前さん、今どこまで覚えている?」
驚いたように、ショウは目を見開く。
あっ……と声を漏らし口を閉ざした。考え込むように、視線を彷徨わせ握りこぶしをぎゅっと握った。
「そうじゃろ? あまり、残っていないのではないか? 大切な何かを、記憶も、声も」
ショウの心の内を読むかのように老人は微笑んでいた目を開く。
ただ、真っ直ぐにショウを見つめている。
「無くしかけているのは、積み重ねてきた時間そのもの。それは大事な、相棒との記憶」
老人はその時目を伏せて、隣に寄り添う老婆の手にそっと触れる。
それはとても慈しむように、傷跡に触れるようだった。
「まさか……」
「儂も、こやつとの記憶はあまりない。若い頃の、世界がこんなになる前の記憶と共に失ってしまった」
寂しそうに、老人は老婆を見る。
老婆は、そっと老人に笑いかけるだけだ。
その時気づく。老婆は一言も発さないことに。
「儂も多くは覚えていない。だが、こやつを大事だと思う気持ちだけは残っていた。心に、魂に」
魂、と老人は言い切る。
それは忘れても、忘れられない大事なものだという証明なのかもしれない。
刻み込まれているもの。不確かでも自分の中に確かにあると信じられるもの。
トウタは胸を押さえる。
微かに残る痛みは、ずっと胸の中にある。
誰かといた記憶。
自分には相棒がいない。
だけど、いたという記憶はある。顔も、声も思い出せないほど、白く霞んでいる。
だけど、優しくトウタ、と呼ばれた気がする。
刻み込まれているのだ。きっと、魂に。




