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第2話 ──生活スキル、実地で輝く

第2話 ──生活スキル、実地で輝く

 依頼内容は単純だった。

 村はずれの果樹園で、夜な夜な作物を荒らす獣が出るらしい。

 それを追い払うか、駆除する。対象は猪か、稀にオオカミ。


 報酬は銀貨二枚。まずまずの額だ。


「へっ、こんな雑魚依頼、俺一人で十分なんだけどな」


 同行するのは、またしても例の若造・カイル。

 どうやらギルドの受付嬢リアの提案で「新人は二人組まで」と決まっているらしい。うまくやったもんだ。


「気を抜くな。猪は突進してくるぞ。止まらんぞ、あれは」


「なに言ってんだ、オヤジ。俺は訓練してんだよ? 一発で仕留めてやるさ」


 勇ましく言ってはいるが、こいつの装備はギラついているだけで、鍛え込まれた気配は薄い。おそらく模擬訓練しか経験していない。


 ――ま、いい。若いうちは誰だってそうだ。


 


 ◇ ◇ ◇


 


 日が暮れる頃、果樹園の裏手に小さな小屋を見つけ、そこで待機することにした。

 俺は荷物から麻縄と小石、乾いた葉を取り出し、小さな罠を仕掛ける。


「なあ……何やってんだ?」


「罠だ。通り道を観察して、足場を崩しておく。引っかかれば音も鳴るし、動きも止まる」


「ふーん……ま、せいぜい頑張れよ。俺は正面でぶっ倒してやる」


 日が完全に落ち、月明かりが畑を照らし始めた頃、低い唸り声が聞こえた。


 ――ガサガサ、ガサッ!


「来た!」


 カイルが躍り出る。見ると、果樹の陰から鼻息荒く、巨大な猪が突進してきた。

 ……でかい。下手すれば百キロはあるか?


「うおおおおおっ!」


 カイルが斬りかかるが、猪の突進力は凄まじい。剣が浅く肩に入ったものの、押し負けて後方に吹き飛ぶ。


「ぐっ……! チクショウ、こいつ……!」


 すかさず俺は、罠の位置へ誘導するよう石を投げる。音に反応して猪が動き、前足が罠の縄にかかる。


 ――バシン!


 足がとられた猪が転倒。体勢が崩れたその隙に、俺は道具袋から投げナイフ代わりの尖った骨片を取り出し、眼の近くへ投げる。


 鋭く鳴いた猪は、苦悶の叫びをあげながら森の奥へと退却していった。


「逃がしたか……」


「ぜぇ、ぜぇ……くそ……俺……全然だめじゃねえか……!」


 肩で息をするカイルが、地面を拳で叩く。

 だが、そんな姿を見ると、不思議と腹も立たなかった。


「怪我は浅い。だが油断するな。傷は後から腫れるぞ」


「……あんた、なんでこんなことに慣れてるんだよ」


「長く生きてりゃ、嫌でも身につく。こっちは何十年も危険物倉庫で働いてたからな」


「……は?」


「いや、気にするな。向こうの話だ」


 俺は懐から消毒液代わりの野草酒を取り出し、カイルの傷口に塗る。彼は顔をしかめたが、反論はしなかった。


 


 ◇ ◇ ◇


 


 結局、猪は逃げたが、しばらくは近づかないだろうと判断され、依頼は“成功”扱いとなった。


 ギルドに戻ると、リアが少し驚いた顔をした。


「帰ってきたんですね。お二人とも」


「生きてるだけで大勝利ってやつだ」


 カイルが苦笑しながら肩をすくめる。その顔には、今朝とは違う何かが宿っていた。


「ジジイ、お前……いや、マツさん。あんた、意外とすげぇな。つーか、助かった。……ありがとな」


 ぽつりと言ったその言葉は、やけに重かった。


「礼はいい。お互い、無事に帰れりゃ、それが一番の報酬だ」


 そのとき、俺は気づいた。

 “この歳で人に頼られる”ということが、どれだけ嬉しいかを。


 


(第2話・了)



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