この空の向こうに、きっと、君がいる。
タイトル:「空に、手を伸ばして」
登場人物
蒼井 空:
小さな町にやってきた青年。失くした記憶と、誰かを探している。無口で不器用だが、どこか優しい。
風見 羽衣:
地元の少女。人と距離を置いているが、空には不思議と心を開く。病弱で、空を見上げるのが好き。
プロローグ
「この空の向こうに、きっと、君がいる。」
潮風に吹かれた草原の向こうで、少女はひとり、空を見上げていた。
まるで何かを待つかのように。
風が吹くたび、白いワンピースの裾が小さく揺れる。
青年は、ただその姿を見つめていた。
どこかで、あの背中を見た気がする。
遠い記憶の中、夢の中、或いは——前世のどこかで。
少女が、こちらを向く。
その瞳は、まるで…涙のように透き通っていた。
羽衣「また、誰かを探しているの?」
空「……ああ。だけど、見つけられないんだ。名前も、顔も、思い出せない。」
羽衣「きっと、見つかるよ。だって——」
羽衣「空は、つながっているから。」
そのとき、風が強く吹いた。
羽衣の髪が宙に舞い、空の匂いがふたりの間をすり抜けていく。
——そして、ふたりの時間が、静かに動き出す。
これは、夏の終わりに紡がれる、忘れられた記憶と約束の物語。