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ひひら、風に舞う
第六章:「ひひら、風に舞う」
それから、遼は何も覚えていなかった。
羽衣の存在も、夏の丘も、神社のことも。
ただひとつだけ、胸の奥に残る感覚。
「……空を見上げると、なぜか涙が出るんだ。」
そんな遼の前に、ある日、転校生が現れる。
「はじめまして。風見 羽衣です。」
遼は、目を見開いた。
けれど、何も言えない。
ただ、心臓が高鳴っていた。
そして羽衣は、微笑んだ。
「……また、会えたね。」
——そうして物語は、また巡る。
風が吹くたび、ふたりの記憶は静かに重なっていく。