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世界×終焉= -川で拾ったファンタジックな手紙は、想いを繋ぐ恋文でした-

作者: とみなが夕

これは、愚かにも世界の終焉に抗ってしまった私の手記である。

 ある冬の日の事である。

 大学二回生を目前にし、不安と焦燥の現実に打ちのめされていた私は、一人寂しく鴨川デルタに足を運んでいた。


 鴨川デルタとは京都の左京区、二つの川が合流し、人々が集う三角地帯であり。普段は観光客、夏場は大学生の宴が繰り広げられる、そんな場所なのだ。


 そんなところにひとりぼっち大学生が何の用事だと言いたそうな読者諸君には一言だけ言っておこう。

 私は、運命の出会いを待っているのだ。


 大学二回生までの二十年近く、私に恋愛というものは無いに等しかった。強いて存在する片思いは恋愛に含まれまい。

 なぜ私には桃色の風が吹いてくることはないのか。私とて一人の男、恋愛もせずに大人になることに怯えているのだ。

 そうしてある時、家を飛び出し、私は運命の出会いを探し始めた。

 

 最近になって風のうわさに聞いたことがある。人生はモテ期が三回来るというのだ。もしそれが本当ならば、私がモテ期を残しているということは、私の身体はモテを蓄え、今か今かとその時が来るのを待っているのだと。

 ならば、人の多く集まる場所、二つの川の交わる、出会いを象徴するかの如きこの場所で運命の出会いを待つことは必然の行いなのだ。


 しかしながらこの春休み、毎日同じ場所にいると当初は人々から向けられていた物珍しいものを見るような視線も減り、私自身が人々の日常の一部になったということを実感した。



 日が傾き始めてしまい、風の冷やかさが一段と強くなってくる。

 今日もその日ではなかったのだなと、なんともいえぬ気持ちを胸に立ち上がったその時、私は見つけてくださいと言わんばかりに夕日を反射し、川の波に揺られる一つの小瓶を見つけた。


 ズボンの裾が濡れてしまうことも構わぬまま川に踏み入ると、そこは流氷かと言わんばかりの冷たさの中だった。それでも、歩みを止める訳にはいかないのだ。そう、この時の私は既にこれが運命の出会いなのだと思い込んでいた。

 流れに足を取られながらもなんとか瓶を手に入れたとき、夜の暗闇の中で全身がびしょ濡れになっていた私を、何の事情も知らぬ人間が見たら河童の親族か何かだと思ったことだろう。



 家に戻った私は、そわそわする心を自室の畳から立ち込める独特の香りでどうにか落ち着けようとしていたが、そんなことの無意味さには一分とたたずに気が付いてしまう。

 私は寝ころんだまま、ポケットにしまっていた小瓶を照明にかざすと、その中にはやはり紙のようなものが入っていた。

 これはきっと文通の始まり。運命の相手は文通からのお付き合いを望んでいるに違いない。違いないのだ。


 小瓶を開けた私が目にしたのは、驚くべき言葉の連なる文であった。


  この世界に終焉が迫っています。

  世界を救うには、私と貴方。二人の力が必要なのです。

  どうか、力をお貸しください。


 そんな短くもファンタジックな文章に私の心は動かされることはなく、むしろ馬鹿馬鹿しいとすら思ってしまった。もしこれを書いたのが運命の人であっても、私には今すぐ手紙を破り捨ててやろうと、そんな気持ちだった。

 

 しかし一体誰なのだ、普段からラノベを愛読する私に当てつけたような手紙を流して来た者は。もし私に宛てた文章なら、世界の終焉よりも私の童貞の終焉を迫らせてほしいものだ。


 ため息をつきながら、ふと手紙の裏を見たとき、続きの文の存在に気が付いた。

 それは住所であった。何所からどう見ても住所。しかも私の家から徒歩十分近く。

 ならば、運命だろうと何であろうと、私に期待させたその者の顔を一度でも拝んでやろうではないかと、私は家を飛び出した。



 まさかあの夜、出会いを信じた私にこんな運命が待っているとは。

 繋がるはずの無いと思っていた、無いに等しかったもの。

 それが、こんなに輝くとは。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます。


超短編な今作ですが、楽しんでいただけたらこちらとしてもうれしい限りです。

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