第五章
第五章
優は、ただ一人で自室のベッドに座っていた。
ちなみに優の家はマンションの6階にある。
「ふう・・・」
優は血に染まったYシャツを脱いだ。
赤黒い血が、優の綺麗なボディラインを汚している。
その様子は、何故か見る者に恐い、という感情を植えつけない半ば艶かしいものだった。
きっと、それは優が今までにない晴れやかな笑顔をしていたせいなのだろう。
お気に入りのTシャツをきると、スカートを脱いでジーンズに履き替えた。
そして、滅多にしない化粧を始める。
いつになく、濃く。
それは、自分が今からしようとしていることをした最後のときに、微笑んだりしていないように。
自分自身を偽るかのように、濃くラインを引いていく。
艶かしく、妖艶に光るリップはまるでこれからの旅路を明るく照らしているかのようだ。
だが、それとは対照的に目元に黒く光るラインはこれから駆け抜ける筈の道がまるで悪魔の道であると主張しているように見える。
しばらくして、化粧が終わった。
「ペン、どこにしまったっけ」
一人で呟くと、机の中をごそごそと掻き回す。
(あった)
一緒にしまってあった、可愛らしいプリントが入ったメモ帳も一緒に取り出す。
優は椅子に腰掛けると、ペンを手になにやら書き始めた。
―遺書―
私は、友達だと信じ続けてきた辰巳杏に裏切られました。
彼女は私を蔑み、嘲笑い、軽蔑しました。
そして、私へのあてつけに、私の想い人と付き合い始めました。
私は悲しかった。
唯一の友達に、そんな風に、『虐められる』なんて。
私の唯一の心の支えだった彼女が私を裏切った以上、もう頼れる人はいません。
もう、生きがいはありません。
さようなら。
それだけ書いてしまうと、優は自分の部屋の窓を開け放った。
「本当、つまらない人生だったな・・・。でも、まあ、最後の最後で楽しめたし」
優は至福の表情で自分自身に言い聞かせた。
「結局、嘘で固めた遺書書いちゃったけど。杏ちゃんはどうなっちゃうんだろうね?」
クスクスと悪戯っぽく笑う。
「目が覚めたとしても、あるのかな?記憶」
美しい唇を歪めて。
「まあ、死んじゃっでも私がまたたっぷり地獄で遊んであげるよ」
高らかに。
「生まれ変わったら」
歌うように。
「また」
さえずる。
「友達になってね」
その数十秒後、優の人生は幕を閉じた。