第三章
第三章
「先生、今日こそセーフ!!」
「ギリギリアウトにしておくからね」
「結局遅刻じゃん!!」
今日も朝から杏が騒いでいた。
というよりも、単にうるさいだけなのかもしれない。
少なくとも、今日の優には何故かそう感じた。
「遅刻魔登場!」
何故なら、そう言ってクラスを盛り上げたのは、他でもない達真だったからだ。
つまり、優は達と親しく接することが出来る杏に嫉妬していた。
(遅刻ばっかりしてるのに、調子に乗って・・・)
「おはよう、優」
「え、あ。おはよう」
それでも上辺だけはいつもの優のままだった。
(杏ちゃんのためじゃない。みんなのためでもない。そう、ただ、嫌われたくないから)
達真に。ただ、それだけ。
「今日中に仕上げないとな」
今、優達の教室はダンボールや新聞紙、遮光カーテンなどで教室中を覆ってある。
HRには使えないので、同じ階にある予備室を使っている。
「うん。私は自分の分は終わったけど」
「大道具は一人じゃ出来ないからなあ。まったく、あいつらがまじめにやってくれないとこっちも進まないよ」
「何だって!?」
「おいそこの杏とかいう果物!!お前が一番遊んでるんじゃねえか!」
「何のこと?」
優は心の中で男子の言葉を肯定した。
(本当に。一番遊んでるのは自分じゃない)
その分のツケが優に回ってくるのだ。
お気楽に笑っていられる杏が心なしか少し疎ましい。
「分かったよ!今日はちゃんとまじめにやるって!」
杏がそう言ったところで、HRが再開された。
(はあ。なんだか今日は嫌な気分・・・)
いつもなら、弁当を杏と二人で啄ばんでいる時間。
忙しいのか、杏は予備室に帰ってこなかった。
(一人でお弁当食べるのって久しぶりかも・・・)
そう思って、杏の姿を脳に思い浮かべる。
(なんだかんだいって、友達だよね・・・?)
そう思ったつかの間。
「ねえ。聞いた?」
「うん!凄いよね」
女子達が騒ぎながら予備室に入ってくる。
優はいつもと同じように流していた。
「杏と山間君でしょ?」
(・・・え?)
「お似合いだよね」
脳に衝撃を感じた。気分が悪くなる。
「う・・・」
「あれ?」
「何で」
「私」
こんなにも気分が悪くなるのだろう。
たとえ達真が好きだったとしても、友達の幸せを考えれば喜ぶべきなのに。
そう、友達ならば。
「はは・・・」
優は、気づいた。
ワ タ シ ハ 『辰巳杏』 ガ ダ イ キ ラ イ ナ ノ ダ
今更。
ならば。
自分に素直になろう。
今まで自分が味わってきた苦汁を。
最愛の友のに。
奉げよう。