表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/7

第二章


第二章


「セーフッ!!」

次の日の朝、杏が教室に飛び込んできた。

「辰巳さん遅い」

先生が苦笑いしながら注意する。

「えー、セーフにしてよ」

「チャイム鳴ってから30秒は経ってるよな」

「げっ、まじかよ!?」

男子のうちの誰かが茶化したのに杏が答えると、教室は笑いの渦に包まれた。

優は茶化した男子が自分の想い人だということに気付くと、周りにつられて自分自身も少し笑いながら思った。


(やっぱり杏ちゃんはいいな・・・)


この日は一日、文化祭の準備だった。

優のクラスでは、お化け屋敷をやることになっていた。

名前は『孤独血路』。その名のとおり、小学校高学年からは入場は一人ずつ。

友達は勿論、カップルでの入場も禁止にしてある。

もっともこれは「文化祭でまでイチャイチャしてるの見せ付けられたくない!!」という生徒の要望が発展したものなのだが。

お化け屋敷なだけあって、やはり準備は大変だ。

大道具から小道具や衣装までしっかりとそろえなければならない。

優は小道具の用意の担当なのだが、まじめに取り組むおかげで自分の担当はもうすぐ終わりそうだ。

だからこそと言っていいのか、他の女子達から仕事を押し付けられる。

「足立さん、ちょっと水汲んできてくれない?」

「ねえ、もう終わるでしょ?だったら、ちょっと生徒会室にこれ届けてきてよ」

「あ、衣装のほうが人手足りないって言うからちょっと頼んでもいい?」

優は断ることが出来なかった。

言われた仕事すべてを一生懸命になってやってのける。

そうしてそれがすべて終わると、今度は買出しや大道具班の手伝いが待っている。

「優ー!」

大道具に使う工具を運んでいると、優の背中に向かって叫ぶ声があった。

杏だ。

「杏ちゃん。大道具だっけ?」

「おう。まったく、男子がまじめにいやらないから長引きそうだぜ」

「お疲れ様」

優が少し微笑みながら言うと、杏は少し改まった様子で口を開いた。

「あのさ・・・」

「え?」

「優は、やっぱり達真が好きなのか?」

「なっ・・・」

優は顔を真っ赤にして呻いた。

「い、言わないでよ?」

「・・・ああ。分かってるよ」

杏はそう言うと、優の手から工具を取ると大道具班に戻っていってしまった。

(杏ちゃん、どうしたんだろう?)

いつもと様子が少し違った。

優が腕を組んで考え込んでいると、

「おい」

と声をかけてきた生徒がいた。

達真だ。

「あ、山間くん・・・」

「あのさ、杏みなかった?」

「え、見てないよ」

とっさに口から出た否定の言葉。

「そっか。じゃあ、すれ違いになったかな。サンキュー!」

「あ、ううん。がんばってね」

たったそれだけの会話。

しかし、優はわずかな優越感を覚えた。

(杏ちゃんがいないときに、男子と話せた)

それだけで、優にとっては大きな進歩に他ならなかった。

たとえ、それが友情を踏みにじるもの―



だったとしても。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ