第一章
第一章
記録開始日 6666死神年66死神月66死神日
2110地球年09地球月09地球日
記録者 スイ・イノレミ(第2級位死神)
対象者 氏名 足立優
性別 女(♀)
種族 人間
星籍 銀河系太陽系第三番惑星地球
国籍 アジア州日本国
所在 神奈川県
年齢 15歳
所属 山並町立山並中学校3年1組1番
「優っ!」
一人文化祭の準備に勤しんでいた優は、いきなりクラスメートの辰巳杏から声をかけられた。
「手伝おうか?」
「ううん、大丈夫・・・」
「まったく」
杏は苦笑いをして言う。
「優は遠慮しすぎ」
そうなのだ。
優は、静かで控えめ。それだけなら良いのだが、引っ込み思案でしかも失敗をしてばかりいる。
クラスメートとは仲が良いどころか、逆に嫌われている。
「ううん、本当に大丈夫だから」
「辰巳は無遠慮すぎなんだよ」
教室の後ろのほうから、男子達が野次を飛ばしてくる。
杏は優とは違い明るく快活で、男女を問わず仲が良い。
あまり人と絡めない優に明るく接してくれる、いわば唯一の友達だ。
「しっかし、なあ。お化け屋敷なんて面倒くさい」
「でも、中学校最後の文化祭だよ。頑張らなきゃ」
「はいはい」
優のそういった律儀なところが他の女子達から嫌われている原因でもあるのだが、本人はまるで気付いていない。
それどころか、利用されていることにも気付かずに押し付けられてくる面倒な仕事をすべて一手に引き受けている。
「そういえばさ」
杏はニヤリとして優の肩を小突いて小指を立てた。
「こっちのほうはどうなのよ」
「あ、杏ちゃん・・・」
顔を真っ赤に染める優を小突き回しながら杏は続ける。
「達真なんだろ?」
優は小さく頷いた。
優が好きなのは、同じクラスの山間達真だ。
快活で人気があり、優とはまるで無縁の存在。
「なんであいつなんだよ?」
「え・・・」
なんでと言われても。好きになってしまったものはしょうがない。
「まあ、確かに良い奴だけどね」
「杏ー!!手伝ってよ」
「あ、今行く!じゃあ、優、またあとで」
それだけ言うと、杏は他の女子達の所に行ってしまった。
(あーあ・・・)
優はため息をついた。
(もっと杏ちゃんと話せたらいいのに・・・)
放課後、優は杏に誘われて本屋に行くことにした。
意外なことに、杏は本の虫なのだ。
「そんでさー・・・」
「杏ちゃん」
優は恐る恐る口を開いた。
「何で、杏ちゃんは私なんかと仲良くしてくれるの?」
「は?」
杏は呆気にとられて口をぽかんとあけた。
世間話をしていたときにいきなりこんなことを聞かれたら、誰だってびっくりする。
「あの・・・」
「優さあ」
杏は少しまじめな顔をして口を開いた。
「自分を卑下しすぎ」
「え・・・?」
「あたしは人の好き嫌いがあんまりないし。別に、仲良くする奴を選んだりしてるつもりはないしさ」
だからといって、そう簡単に誰とでも仲良くできるものではない。
「杏ちゃんが、羨ましいな・・・」
それは、優の心の声。本音だった。
「そう?」
杏は少し恥ずかしそうに笑って誤魔化した。
「大変だけどね。いろいろ気を使わなきゃいけないし、男子とかはしょっちゅうからかってくるし・・・」
杏は男子達と遊んだ話をしているときが一番楽しそうだ。
優は少し虚しくなって言った。
「私、山間君にどう思われてるのかな・・・」
杏はくすりと困ったように笑った。
「あたしは達真じゃないからな」
その顔が一瞬曇ったことに、優が気付くことはなかった。