短編
駄文
楽園から追い出された妖精が作り上げた国と呼ばれる場所があった。
治めるのは追い出された妖精の子孫と言われる、ミカミ家。
唯一海上から飛び出る土地に住う一族であり、この都市の中心地にある城に住んでいる。その周りは浅瀬の海のため、高床式住居の家が並んでいる。中心地は石造りだが、その周りを木造建築、そしてその周りが船家というように並んでいた。そしてこの都市を守るように海でも育つヒルギウというツルのような木々が生い茂りこの都市を侵略者たちから守っていた。
「海鳥がきた!」
その声と同時に、矢がいくつも空へと高く飛び上がった。何本かは空振りにおわるも、四羽は仕留めて落ちていく。
「やった!」
ヒルギウの木々の合間から猿のように飛んで移動するのは10代くらいの少年少女たちだ。みな着物のような上着と半ズボンを履いている。
彼らの今日の仕事は狩だ。落ちてくる鳥をうまく捕まえていく。
「今日はごちそうだね!」
少年少女たちは楽しげに手を叩き合いながら、木々の根っこにつないでいた小舟に飛び乗った。小舟の上で手際良く羽をむしり、血抜きもしていく。
「そういえば、地平線の向こう側に船がきてるって」
「本当? 商人のおじちゃんたち帰ってきたんだ!」
この国から一番近い国まで船で三十日間旅をしないとつかないというのは、時折くる商人たちの話だ。この国に住う人々にとって知っている世界はここだけで、他の国には山や川、雪山なんてものがあるというのは、商人たちが持ち込んだ書物の中で語れる夢物語のような世界だった。
「僕、いつか商人になるんだー」
「お前がー? まずは数字に強くならないといけないんだぞ。10までしか数えらんないだろ」
「う、うるせー!」
騒ぐ少年たちに少女たちはげらげら笑いながら、ヒルギウの森を抜けて人々が住う都市へと戻った。
狩りで手に入った鳥は市場の人たちにわたし、商人が集まる水路へと板をつなげた通路をつかって向かう。
「おじさん! 今日は何が手に入ったの?!」
「今日は布と、フルーツ! それと剣だ!」
「俺剣みたい!」
「わたし布!布見せて!」
「落ち着け落ち着け!」
少年たちが商人の周りに集まりながら、商品を弄り回していく。
「それよりもお昼は食べたのか? 食いっぱぐれちまうぞ?」
商人の言葉に少女たちは、しまったという顔をして急いで走り出した。この都市では食事をする場所が決まっていた。火を扱っていい場所が風下のエリアのみという決まりがあった、そのため宿屋もこの辺りに密集している。
食べる時間は職業や年齢できまっており、彼らが食べる時間がまさに今だった。
「あぶないあぶない!」
「お腹すいたー!」
食堂に入れば、他の子達が食べている真っ最中だ。
「間に合ったー!」
急いで食事を受け取りながら食べ始める彼らは、他の子たちに行商人が帰ってきたことを告げれば、慌てて食器を片付けて向かう子たちがいた。欲しいものは早い者勝ちなのだ。
急がない子たちは特に今欲しいものはなく、次の仕事場へと向かっていく。
「アルファ様のお手伝いに行く人ー!5人まで!」
ある青年が手を挙げて告げると慌てて手をあげて群がる子たち。
「わたしわたし!」
「ぼくぼく!」
慌てて募集をかけた青年がジャンケンで決めていった。5人まで絞り込むと、町の中心であるミカミ家の屋敷へと向かった。階段をいくつものぼり、この土地で唯一ある小さな山の上にあるのだ。
岩肌の上に組まれた木の階段を登り切れば街が一望できる。
「今日は何をするのかな!」
「船の観測かな?」
「天気じゃない?」
「書物の整理がいいな! 面白いお話が読みたーい」
皆口々にやりたいことを告げながら、木の扉を開けて中に入った。
この土地で唯一石造りの建物は、もしもの時に篭城できるようになっている。そのため、扉の内側には鉄格子が落とせる仕組みがあるのだが、今まで動いた形跡はない。
「アルファさまー! お手伝いに来ました!」
青年が声をかけた先には、白い着物を見に纏ったアルファがいた。
この国の王子であり、次期国王でもある青年は、にっこりと微笑んだ。
「ありがとう、さっそく頼むよ」
みなに作業を割り振りながら、アルファと青年は国外から持ち込まれた本の整理をし始めた。青年は一部の国の言葉は読めるので、中身を見ながら仕分けていくのだ。
「ねぇ、アルファ様。いつか俺も外に行けるかな?」
「んー武術にたけて、人を見る目を養わないと無理じゃないかな?」
「武術かー苦手なんだよなー。そんなに外は危険なのか?」
「あぁ、大人でも拐われるんだ。今回も一人さらわれたらしいよ」
「……そうか」
「まぁ、無事に戻ってくると思うけどね、さらわれたのが泳ぐのが得意な人らしいから、イルカを捕まえてかえってくるよ」
「それなら良かった。……アルファ様は外の人間を見たくないのか?」
「ここからでも十分見れるからね。それに見に行ったら、それこそ捕まるか火炙りにされちゃうよ」
アルファはクスクス笑いながら、本を見せた。
そこには、ミカミ家の特徴である金の瞳と背の模様をもつものは悪魔で火炙りにするという内容だった。
「うそだろう」
「本当だよ。だから危険なんだ」
青年は思わず自分の姿を鏡で見た。
ここの住民はどこかしらミカミ家の特徴を持って生まれてくる。
それでも外の世界への憧れは消すことはできず、壁に飾られた地図を見てしまうのだった。
「まぁ、外の世界とのつながりをしてくれる大人がいるおかげで、ここでも生きていけるんだ」
アルファは青年の頭を撫でながら、書物を閉じた。
短編で投稿したつもりが連載になってました!