第一章 9話 疲れ ナオミ
林間合宿は中止。生徒たちは即帰宅となった。
「ガレット。ウチの馬車も来たらしいから帰るぞ。」
「分かっ、」
あれ、なんか視界が眩んで、
「おい!」
倒れそうなガレットを片手で支えたアルス。
「大丈夫か!」
「なんか、眠く、」
意識が途絶えたガレット。
「ガレット!おい!起きろガレット!」
「アルス・シャーロズ。ガレットを少し見せろ。」
アルスはマキロにガレットを見せた。
「心配するな。寝ているだけだ。あれだけの超高等魔法を出していたのだ、体は疲れて当然だな。」
「良かった...」
(しかしあのレベルの魔法を行使して寝るだけとは。高等魔法士でも昏睡状態に陥るレベルなのにこの娘、どのような血筋なのだ。)
「馬車が来たのならすぐ帰るといい。コイツを休ませてやれ。」
「はい。」
マキロも自身の持つ馬に跨り帰路に着いた。
(あの人形擬きが言うにはガレットの本名はガレット・w・リンズ。でもガレット自身は否定したワケだから本名ではないのだろうな。まぁ関係している可能性が高いから調べるに越したことはない。)
調べを始める決意をしたマキロ。
(念の為、過去のwとアザリンスの関係も調べておこう。)
懐かしい雰囲気を感じた。陽光が差し込んでいる少し古い家の空気。
(温かい。)
自分がかつていた村とよく似ていた。
「ガレット。ガレット。」
誰かが私に呼びかける。
「誰?」
目が覚めたらそこは学園の医務室。
「ん?医務室?」
ふと手元に生暖かい感触を感じた。
「アルス?」
「んぁ、起きたのか?」
どうやら寝ぼけているらしい。正直笑える。頭がボンバーヘッドみたいだ。
「本当に心配はしていたぞ!」
「なんか一言余計な気がするけど、まぁいいや。私どれくらい寝てたの?」
「大体7時間。」
「超健康体じゃん。」
「そうだね。」
少し沈黙の間があいた。
「なぁガレットってさ、なんなの?」
「え、何急に。」
「あんな見るからにヤバそうな魔法、使えるって何かあるかなって。」
ガレットは少し俯いた。
「言いたくないなら言わなくていい。」
「それさ、私も分からないんだよね。」
「は?」
顔を上げたガレットは少し悲しそうな顔をして言った。
「私自身が何者なのか分からないんだよ。十年前にアナタの家に来て、何も分からないんだよ。」
「嘘だろ。」
驚いたガレット。
「え?」
「お前が嘘を言うときは大体右眉が微妙に上がってるからな。」
「...なんで分かるんだよ。」
少しムスッとした顔をした。
「もう何年一緒にいると思ってる。それくらい分かるさ。」
「私は、」
言っていいかわからない。“あの惨劇”を。口に出したら私から離れるかもしれない。私はそれが嫌だと思っている。
「言いたくないなら言うな。無理に聞くつもりはない。」
「そう、か。」
「病み上がりの人間にそんな酷なこと聞くほど、俺は無慈悲じゃねぇよ。」
「ありがとう。」
そのあと先生とかが来ていろいろ聞かれた。相手との面識があるのかと凄い聞かれた。でもそんなとき、アルスはずっと私のそばにいた。
「アイツら、ずっとガレットに詰め寄ってたな。」
「そうだね。まぁ当然といえば、当然かな?」
「一応帰れるみたいだから帰るぞ。」
「うん。」
帰りの馬車の中はとてつもなく気まずかった。
(気まずい...)
程なくして家に着いた。
「あれ、誰か来るのかな。」
庭を見ると何やら見たことない馬車が停まっていた。
「あ、今日まさか、」
『アルス〜く〜ん!』
遠くから声が聞こえた。
「うわ最悪。」
いきなりぶつかってきた。
「お前毎回来た時にぶつかるのやめろよな。」
「いいじゃん!」
「誰?どなたですか?」
「私はナオミ。ナオミ・ジェッタ!アルス君の従姉妹だよ!」
「従姉妹?」
「貴女は、確かガレット・リンズよね?アルス君から聞いてるわ!」
「は、はい。」
「とりあえず離れろ!」
かなり近い距離にいたのでアルスによりナオミは引き離された。
「お前今年でもう25なのにそれでいいと思っているのか?」
「良いんだよ!私は自由なんだから!」
「はぁ。お前にも困るな。で、今回は何のようだ?」
「我が従兄弟ながら冷たいなぁ。今日の用事は、君だよ。ガレット!」
ナオミはガレットを指差した。
「え、私?」
「そ!学園の人から呼び出されちゃってね。色々話聞いてほしいって頼まれたの!」
「学園の人が、直々に?」
「そう!まぁ、カウンセリング?みたいなやつ!」
「カウンセリング?」
「そ!さぁ早く来て!」
「あ、ちょ、」
ガレットはナオミに手を引かれて屋敷の中に入って行った。
「はぁ。ナオミってヤツは。」
25なんて結婚相手探してる時期だろうな何やってるんだか。