第一章 6話 危険事態発生
時は過ぎ林間合宿の日となった。
「今日から林間合宿だ!家の人間は助けにこない!自分達で解決するように!」
緑が生い茂り、鳥の囀りか聴こえる。
「空気綺麗〜!」
生徒たちはそれぞれ散らばった。
「アルス様〜♡」
予想通り女が群がってきたな。
「この後暇なら〜お茶でもしませんか♡?」
吐き気がする。高いのか安いのか分からない香水をつけて擦り寄ってくるなんて。
「知らん。どけ。」
アルスは周りに集まってきた人を押し退けてズカズカと歩いて行った。
「あ〜んアルス様〜。待って〜。」
「気持ち悪い。人に媚びを売るしか能がない人間がこれから一人で生きていけるワケない。」
一人で森の中を歩いていた。
「あれならまだガレットの方が幾分かマシだ。」
香水付けず厚化粧もしない。余計に擦り寄ってこないしまだマシだ。
「まぁ寝坊癖は治して欲しいんだがな。」
ウザがってはいるがアルスはガレットを友達だとは思っている。
(今はマシになったが、昔は命を狙われていた。でもそんな時助けたのは大体ガレットだったな。懐かしい。)
幼少期の記憶がふと蘇ってきた。
(ガレット、今どこにいるんだ?)
山の奥深くにある小川を訪れていたガレット。
「ここなら、良いよね。」
靴と靴下を脱ぎ足を水に浸らせた。
「冷たいな。」
水が綺麗。
(林間合宿、何気に楽しみにしてたからな〜。後で魚釣りでもするか!)
水でしばらく遊んでいたら向こうから何人か来た。
「ねぇ、ガレット・リンズよね?シャーロズ家に居候しているっていう。」
「それが何か?」
出てきたのは数名の女のグループ。
(私をリンチでもするつもりなのかしら。)
「あなた、孤児なんでしょ?親がいない分際で侯爵家であるアルス様と関わるの、やめてくれないかしら?」
「は?アルスに無視されてるからってあたるの辞めてくれない?そうやって、多数でしか少数を攻撃できないからアルスに相手にされないのよ。」
次々とガレットの口から出てくるナイフのような言葉が女グループを煽っていった。
「は、はぁ?誰かの脛齧りしかできないあなたに言われたくないわ。」
ギシシ ミシ 木々が踏まれ、揺れる音がした。
(ん?誰か、近寄ってきてる?)
「ちょっと、聞いているの?アルス様から離れろと、」
「!静かに!」
ガレットは自分を除き結界を張った。
「え、ちょっと!まだ話は!」
「黙って。」
グォォォォォ!!!
(獣の咆哮...もしや林間合宿の目的は、私たちの能力を上げるため?これじゃ下手したら死人が出るわよ?)
「ガレット・リンズ!話を聞いているの?!」
「今はそれどころじゃない!このままじゃあなた達死ぬわよ!大人しく黙ってなさい!」
出てきたのは巨大な黒霧鬣獅子。
「黒霧鬣獅子?!何で、そんな魔獣がここに?」
魔獣に向かい構えたガレット。
「山に魔獣がいるのは何となく分かっていたけど、このレベルとは、」
誰かが人為的に放ったとしか思えない。
黒霧鬣獅子はガレットの奥にある結界内の女グループを狙って飛び跳ねた。
「ッチ!」
ガレットをも飛び跳ねた黒霧鬣獅子は結界を引っ掻いた。
「きゃあ!」
「黒霧鬣獅子程度が結界を破れると思わないで!」
爆炎魔法:炎聖霊之御柱を放った。
ウガアァァァァ!!
黒霧鬣獅子は水が流れる小川の上に倒れた。
「危ないわね。」
結界を解除した。
「大丈夫?」
女グループはその場にへたり込んだ。
「あ〜こりゃ混乱してるわ。」
「黒霧鬣獅子なんて、こんなの聞いてないわよ!」
泣き始めた者もいた。
「そりゃ私もよ。」
「何で、さっきあんなこと言ったのに助けたのよ!」
「え〜そんなの聞かれても困る笑」
「ガレット!」
アルスが走ってやってきた。
「アルス!」
「ウェスタン大佐が、至急全員本部に戻るようにと!」
「そりゃ魔獣が出てきたんだからそうだろうな。...運ぶの面倒だから転送しよ。」
ガレットは女グループを纏めて本部に転送した。
「転送魔法、使えたのか。しかも有機物だぞ?」
「人間を有機物って言わないの。」
アルスとガレットは本部へ走って戻った。
遠くからアルスとガレットを眺めている黒い影。
「フフ、やっとねぇ。ガレット。」
ー本部ー
「大佐!山の四方を魔獣が覆っています!」
「分かっている!優先すべきは生徒たちはの命。鮨詰めにでもして良いから、建物の中に!」
山の中に散らばっていた生徒は本部の建物の中に入っていった。
「クソ!これが、学園のすることか!」
林間合宿の目的は生徒たちの能力を高めるため。表では一人で生き抜く力を持つためとあるが実際は違うのだ。
(いや、このレベルではないはず。誰かが、放ったのか?)
人為的としか思えない。
(今は生徒を優先するか。)
マキロは魔獣に向け、準備を始めた。