第三章 5話 もうじき閉幕
ノエルはマキロとガリントを孤城にある医務室に運んだ。
(ガリント、君は本当にコレで良かったの?)
ノエルが双子の呪いを解くキッカケがガリントにあった。ガレットへ渡した手紙では“呪いと言って良いだろう”記し二人の魂を分裂させた。だがコレには裏があった。
革命を告げられた半年前よりもっと前にガリントはノエルのもとを訪ねた。
「ヤンドール。あんたに聞きたいことがある。」
「何だい?」
「俺と、マーガレットの魂を分裂させることはできるか?」
双子の魂、特に一卵双生児の魂を分裂させるのは至難の業だった。
「何故そんなことを聞くのかな?」
「俺とマーガレットは一つの魂から生まれた。ってことは片方が死ねばもう片方も死ぬ可能性がある。これから先何が起きるか分からない。何かのために備えたい。というか、アンタ先が“視えて”んだろ。俺から提案するのは好都合なんじゃないか?」
「全てを知る者について知っているみたいだね。その様子だと僕の父、孤城の先代城主が魔法が誰の手で使えなくなったことも知ってるね?」
ガリントの養父でありノエルの実父の魔法行使権を奪ったのはデメールだったのだ。
「アンタがとんでもねえバケモンだから父親も容赦できねえってことで封じられたのは知っている。」
「そう、か。」
「この世界の均衡を揺るがせるくらい最高峰の魔法士であるアンタなら人の魂を割るなんてこと簡単だろ。」
「確かに出来なくはないけれど、それには代償がいるよ。」
「代償?」
「人の魂を割るには膨大な魔力が必要なんだ。下手したら片方どちらかが亡くなる可能性もある。それでも、やるの?」
ノエルはガレットの双子のガリントを案じていたのだ。
「良い。膨大な魔力なら俺のやつを使え。少しは足しになるだろ。」
ガリントの言う俺のヤツを使えと言うのは、自身の魔力全てを捧げることを意味していた。
「マーガレット、ガレットは君がまたいなくなること悲しむと思うよ。」
この世界で魔力を全て第三者に渡すことは文字通り死を意味していた。
「俺がいなくてもアルスがいる。それに殺戮兵器みたいな俺がアイツのそばにいたらまた誰か傷つけるかもしれん。俺より女神に愛されたマーガレットなら、これからも生きていけるだろう。当然、アンタの力はいるがな。」
(どうやら、先見の識があるようだね。ガリントは。全く影武者の一族はどれも計り知れない能力を持っているようだ。)
「君の覚悟は分かったよ。じゃあ、準備を進めるから椅子に座っておいで。」
ガリントは背もたれつきの椅子に座った。ノエルは引き出しからレターセットを出して手紙を書き始めた。これがのちにガレットへ渡される手紙になった。数分経ち手紙を書き終えたノエルは手紙にワックス状の刻印を刻んだ。刻印を刻んだ瞬間、ガリントの心臓は未知の力により縛られた。
「コレが、魂の分割。」
「ガレットがこの手紙を開けた時に術は発動し魂が分裂する。簡単に言えば起爆スイッチだね。それで、少し注意点がある。」
「注意点?」
「この手紙が開封された時君の方へ信号が行く。信号が来たら極力ガレットとの接触は避けて欲しい。」
「それは、何でだ?」
「物理的な距離が近すぎると君が亡くなる時期が少し早まってしまう。だから距離を取って、できるだけ遠くで暮らしてほしい。」
(ガリントにとっては辛い決断になるだろうね。でも、こうするしかないんだよ。)
「今更遠くで過ごすのなんか慣れてる。アレだ。ジィさんの敵討ちって言えば納得するだろ。」
「大丈夫みたいだね。それで少し聞きたいことがあるんだ。」
「聞きたいこと?」
「今までの情報、僕の父の敵。これから先何が起きるのか。聖なる称号を持たずに全て知ることができたのは、一体どうしてなのかな?」
「悟った、と言えば簡単だ。野生動物は自分の死を予感したら一人になるって話聞いたことないか?それと同じだよ。それに最近は亡くなったジィさんや覚えてないはずの両親が夢に出てくるようになった。迎えってヤツだ。」
「その年齢で悟る、か。中々だね。」
「気味悪いわ。じゃ、俺は行くわ。」
ガリントはノエルの部屋から去っていった。
(これは、ロイスに渡しておくとするか。)
(本人がいいと言うならそれでいい。だけど、ねぇ。君も女神に愛された双子の一人なんだよ。そんなに自分を卑下しなくてもいいのに。)
ベットの端に座ってガリントのおでこを撫でたノエル。
「成仏してね。君が望むなら、またこの世界に転生させることも可能だよ。その気になったら僕の夢枕に出て来てね。」
「んぁ、ここは、」
「マキロ。起きたんだね。」
マキロは体を起こして横たわっているガリントを見た。
「あぁ。ガリントは、“そういうこと”か。」
「うん。全部、マーガレットを思ってのことだったらしいよ。」
「そうか。マーガレットはお前といい、ガリントといい、アルスといい、周りから大事にされているんだな。」
「あの子は女神に縁深いから自然に人から愛されるんだよ。」
「本当に、マーガレットは未知数なヤツだな。」
「そういえば、ナオミには会ったのかな?」
「会ってない。今日のためにずっと隠れていたからな。」
「なら会ってくるといい。今は元王と王妃夫妻の所にいるはずだよ。」
「会いに行くのも、良いかもな。」