第三章 4話 契り
(マーガレットが処分できたら次はアルスとマキロ。まあこの二人は脅威ではありませんからどうでも良いですね。)
デメールが勝利を見出した。だがそうは問屋が卸さなかった。
「俺の手を取れ、ガレット!」
「無駄ですよ。あなたがマーガレットを救いd」
白濁の煙は少しづつ消えて中からガレットが出てきた。
「アルス、私のそばにいたのはやっぱりあなただった見たいね。あなたが私の王子様よ。救ってくれてありがとう。もう大丈夫よ。」
「虚無から逃れた、とは。どのような術を、」
「影の守護者だ。知らないのか?」
影の守護者影武者の一族を守る権能基能力。影武者の一族の誰かが危機に瀕した時発動される。
「偽りを見抜く者ではなかった、と?馬鹿な、シャーロズに伝わるモノは偽りを見抜く者では、」
デメールはシャーロズの表上のことしか知らなかった。それもそのはず影の守護者を知るのはシャーロズの名を持つ者のみ。外部には漏れずデメールにさえその情報は渡っていなかった。
「お前は一つ道を違えた。それは俺とガレットを敵に回したことだ。」
「所詮は主人の犬畜生。何もできませんよ。」
「いつ私があなたを葬ると言いました?」
「マーガレット何言って、」
“顕現せよ。ノエル・アザリンス!”
ガレットは手を床に翳して召喚魔法陣を発動させた。魔法陣は赤、橙、黄、緑、青、藍、紫の七色を発した。
「……まさか!」
『そのまさかだよ。旧友。』
出てきたのは陽光の如き長髪と萌葱の瞳。中肉中背で中性的な顔の人間。そう、ヤンドールだった。
「言ったでしょう?あなたを討つのは私じゃないって。」
「馬鹿な、ヤンドールが、アザリンスだって?そんな、」
デメールは混乱していた。
「マーガレット。いや、ガレット。ありがとう。ちゃんと呼んでくれて。」
「はい。遅くなってしまってすみません。ヤン、ノエルさん。」
ヤンドール基ノエルはガレットの頭を優しく撫でた。
「優しい子だね。本当は自分でやりたいでしょう?」
「良いんです。私より、あなたの方が恨みが多そうなので。それに、私まだ死にたくありませんので。」
「君に生きる目的ができたようで安心したよ。あとは任せて。」
ノエルはデメールに近寄った。
「デメール。君がやったことは万死に値する。」
「どうするつもりですか?打首、磔にでもしますか?」
ノエルは不敵な笑みを浮かべ首を傾げた。
「そんな程度で罪が晴れるとお思いで。随分と頓珍漢な頭だな。お前には今まで亡くなってきた無実の人々と同じコトをさせる。十年なんて生ぬるい。お前の嫌いな不変で、暑くもなく寒くもない常世で一万年。いや百万年の時を苦しみと共に過ごせ。魔力もない、飢えることも死ぬこともない。永遠に生き続け致命傷をくらっても生き続ける。お前が大好きな争いごとがあることだけありがたく思ってほしいね。力を持たずに無慈悲に命を刈り取られた人々と同じことを体験するんだね。」
「っあなたも来るでしょう?」
「気が向いたら行く。でも僕の家族を死なせたお前の顔なんか見たくない。お前の顔を見るくらいなら魔蟲に体を食べ尽くされた方がよっぽどマシだ。革命の話を貰った時もあの時偶然鉢合わせて学園長室に呼ばれた日もずっといつ常世に堕としてやろうか決めかねていたからね。」
ノエルのデメールに対する恨みは凄まじいものだったらしい。
「いつか僕は言ったはずだ。強欲はいずれその身を壊すと。お前は間違えたんだ。それを反省するんだね。」
空間を切り裂き禍々しいオーラを放つ亀裂。
“行けよ。”
「何だ、体が、勝手に、」
意思とは反して亀裂に向かって歩きだしたデメール。
「さようなら。デメール。」
デメールが入り終えた瞬間亀裂は閉ざされた。
「終わった、のか。」
壁にめり込んでいたマキロがズルッと床に落ちた。
「マキロさん!」
「心配しないで。寝てるだけだよ。」
「ノエルさん、」
「ガレット、ガリントのことの事なんだけど、」
「良いんです。別に。ガリントが望んだのなら、」
何かを悟ったのかノエルは口を開かなかった。
「ガレット、話がある。」
「何、アルス?」
「さぁて、ジジィは退散しますかな。」
ノエルはマキロを右肩担ぎ、ガリントを横抱きにしてその場から去った。
「こんな時に言う言葉じゃないのは分かってる。だけど、言わせてくれ。」
ガレットの前に跪き、左手を取った。
「俺に、お前を守る権利をくれ。俺は何があってもガレットより先には死なない。約束するよ。だから、俺と、夫婦の契りを結んでくれませんか?」
「アルス…私は、幸せになって、良いの?」
「当たり前だ。お前は幸せになるべきなんだ。影の守護者に頼らず、ガレットを守ってみせる。」
アルスは真剣な目をしていた。
「アルス。一生あなたが私を守ってくれるなら、一緒に夫婦の契りを結んで良いよ。」
「えっと、それって、」
「もちろん、YESってことだよ。」
穏やかな顔で、笑った。アルスはガレットを抱き上げた。
「え、ちょ」
「夢みたいだ。ガレット。」
「そうね。」
ふと二人の目があい、唇が重なった。