第三章 3話 セレネーン
「はぁ?」
扉から入ってきたのは
「半年、いや約1年ぶりだな。学園長。」
「マキロ・ウェスタン…そういうことですか。」
「マーガレットの秘術で蘇った。欠けた目も足も元通り。」
「でもあなたの勝算はないでしょう。」
「確かに今の俺が貴様に勝てるとは思っていないし何ならもう一度死ぬ可能性がある。だがな、お前の気を削ぐことくらいは容易なことよ。」
「何言って、」
ガレットの拳がデメールの顔にめり込んだ。そして光の茨は消えた。
「マキロさんその後の調子はいかがですか?」
「実に爽快だ。この男の最期を看取ることができるのだから。」
「あなた程度に、気を、削ぐ?」
マキロはデメールの胸ぐらを掴んだ。
「貴様には世話になったからな。悪い意味で。これくらいは許せ。争いのウチに入らないからと腹を立てるのは、やめて欲しいがな。」
「ふふ、誰が来ても結果は変わりません。」
「はっ、マキロさん下がって!」
デメールはマキロに向かって魔法を放ち、壁にめり込んだ。
「俺は、大丈夫だ。無視して良い。早く学園長を止めろ。」
「邪魔者は今すぐに消したいところですが、あんな虫ケラくらいすぐに始末できます。それより、」
デメールはガレットとの間合いを詰め短剣で刺した。
「な、」
「随分と背中がお留守でしたね。」
胸から赤い牡丹を咲かせてその場に倒れた。
「さぁ言いなさい。私と手を組むと。」
「馬鹿、言わないでよ。」
「交渉決裂、ですか。なら仕方がありませんね。」
デメールが右腕を天井に仰いだ瞬間磔が降りてきた。
「!!!!皆んな!」
かつて失ったはずの家族。ガナレット、アーレット、サーレット、ナユレットが磔で出てきた。幸い拘束器具は釘ではなく縄だった。
「何で、ここに、死んだはずじゃ?」
「この時が来るまで私が監禁していたのです。」
(皆んな、生きてた。生きてたんだ!)
「もし私の手を取らないのなら、」
磔の4人が漆黒の縄に縛られて呻き声を上げた。
「重苦の末に葬ります。さて、どうしますか?」
(また、家族を失いたくない。でも、ここで手を取ったらもっと酷いことになる。)
「さぁ、早く決めなさい。」
「ガレット、私たちのことはいいから、」
(前に見た、同じ景色を見たことがある気がする。そうだ、あの時。ガリントと対峙した時の、でもあの時とは比べ物にならない。そもそもあの磔は本物なの?私を騙すための罠の可能性もある。)
「さぁ、早く決めないと縛られますよ。」
(誰か、本物か見極める“目”を、頂戴よ!)
すると誰かがガレットに語りかけた。
“偽りを見抜く者を使用したいですか?”
(誰!?)
“ティアです。貴女が望むなら権能を譲渡しましょう。”
(何でもいい、この状況を打破する権能ならさっさと寄越して。”
ガレットの目は鋭く猫のような目になった。
(これが、偽りを見抜く者。じゃなかった。あれは真か贋か教えて。真なら青、贋なら赤。)
ガレットの目に磔が赤に見えた。
(ダウト。あれは偽物ね。)
「ガレット、逃げ、」
ガレットは偽父の体を茨で貫いた。
「知ってるかしら?私がガレットと名乗ったのは聖なる選別のあと。本人なら私のことはマーガレットって呼ぶはずよ。ガリントが偽の母を差し向けてきた時と同じね。」
「ふ、見破られてしまいましたか。まあいいでしょう。」
磔は消滅した。
「ガリントより精巧に“作った”のですが、まさか偽りを見抜く者が譲渡されていたとは。ヤンドールはそこまで予見していたのかもしれませんね。」
「それより、さっさと終わらせるわよ。」
「そうですねえ。と、それより。来客のようですね。」
マキロによって破壊された扉の奥から二人入ってきた。
「アルス、ガリント!」
「大丈夫か!ガレット!」
アルスがガレットに駆け寄った瞬間、
「!アルス!避けろ!」
アルスを庇ってガリントがデメールの放った魔法により貫かれた。
「ガリント!」
「運が良かったですねえ。アルス。」
「お前、俺を庇うなんて、」
「勝手に体が、動いちまったんだ。許せ。この魔法、は、回復が、効かない。女神から、授けられた、アメトムチだったか?それも効かない。」
「そんな、」
脈が薄くなっていったガリント。
「おい!起きろ!」
「起きて!ガリント!」
「女神に、愛された、マーガレットと、守護者のアルスなら、きっと、できる。先に、空で、待ってる、ゾ。」
ガリントは目を閉じた。
「ダメだよ、ねえ、目を開けて!」
目をあけることはなかった。
「どうやら、脆かったようですねえ。片割れは。」
(何で、こんなに私の大事な人が傷つかなければいけないの?家族、村の皆んな、ナオミさん、リンダさん、アルス、ヤンドールさん。デメールが私を狙っていて事を起こしたんだから責任は全部私にあるじゃない。私が死ねば、全て解決するのかな、解放されるのかな、)
ガレットの目は虚になった。
(もう、何でもいい。自由になりたい。復讐も、どうでもいいよ。)
「あなたも、用済みです。消えなさい。“虚無の元へ帰せ 虚いの常世」
白濁の煙に包まれたガレット。
「ガレット!」
(これで楽になれるなら、良いよ。もう。元凶が、無くなるんだから。)
ふとヤンドールの言葉が脳裏をよぎった。
“限界が来たと感じたら、”
(確かに限界かもしれない。でも、この状況をどうにかできるとも思えない。私を救ってくれる人もいない。)
「ガレット!」
(あぁ、そんな顔しないで。不細工になっちゃうから。)
「もうじき消えます。次はアルスですよ。」
俺は、俺は何もできるないのか?大事な人さえ守れないのか?俺より何倍も辛い思いをしてきたガレットを、助けられないのか?救えないのか?俺が守りたいと思った初めての人間を失くすのか。ここで。頼む、誰かキッカケをくれ。なんでもいい、雑魚権能でも何でも良い。ただガレットを守れて助けられる権能をくれ!
以前リンダから託された首飾りが光った。
(確かコレが影の守護者とか言ってる時に全部思い出したよな。そうか、俺はガレットを守るために生まれたんだ。兄貴じゃなくて俺に宿ったのはおそらく同年代だからだろうがそんなことどうでもいい。俺の力になれ、影の守護者!そして俺の手を取れ、ガレット!)