第二章 20話 次の地へ
リンダは半壊した執務室で資料をまとめていた。
「来賓室は全壊、まぁ自立魔道式人形があるから問題ない、か。建物の損壊はそこまでないけど、全てを知る者が亡くなったのが大きすぎる。権能が他に渡らなかっただけマシだと思うべきか。答えは一つだろう。」
この誕生から終焉まで全ての事柄を知る能力、全てを知る者。使い方を間違えれば世界を破壊することも可能。
「僕の能力の上位互換のようなものを失ったのは惜しすぎる。ヤンドールもあるべくして死んだのか。死ぬことは分かっていたのか。ヤンドールの死が生み出すものは何か本人は知っているのか。まぁ、本人亡き今知りようはないな。」
資料をまとめるのに区切りをつけて紅茶を飲んだ。
(偽りを見抜く者が奪われるとは思っていなかったな。まぁ仕方がない、しょうがない。僕達の陣営に残されている手札は偽りを見抜く者だけではないからね。向こうは偽りを見抜く者が“真の家業”だと思い込んでいる。そこを突くしかない。僕たちが生き残るにはそうするしかない。アルス達がいるから大丈夫だろう。)
すると、部屋の扉が叩かれた。
「どうぞ。」
入ってきたのはナオミだった。
「傷はもう大丈夫なのかな?」
「えぇ。問題ないわ。アルスのおかげでね。」
近くの椅子に腰掛けた。
「デメールから連絡は?」
「“王と王妃の行方を追っているところだからそちらのことは任せた。”だってさ。」
「そうなの。」
「王と王妃の居所は既に掴んでいるからもうじき帰ってくると思うよ。」
「どこにいるの?あの二人は。」
「西の砦らしい。」
「西の砦...厄介ね。ウェスタードの他にサンドリオン王国、カリスト公国、マラリオン王国に近い西端の地。西の砦周辺は中規模の土地に中の上規模の国力を持つ国が多い。早く動かなければ潰れるわね。」
「あぁ。だからすぐに西の砦へ行こうと思う。君も来るかい?」
「えぇ。行くわ。乗った船だもの。」
「よし、じゃあすぐに向かおう。後処理は部下に全て振ってあるから問題ない。」
「流石、侯爵閣下。」
リンダとナオミはガレットがいる部屋へ向かった。
「マーガレット。ガリント。話がある。」
「リンダさん、ナオミさん!ナオミさん、怪我は大丈夫ですか?治癒魔法はアルスがかけましたけど、」
「大丈夫よ。私の体は柔くないからね。これでも侯爵分家だから。」
聞いた話によるとナオミさんはリンダさんのお父さんの弟の娘らしく扱い的には本家ではないらしい。
「アルス。聞いてるなら早く入ってきなさい。」
アルスが扉から入ってきた。
「ちょうどいい。皆んな。これから西の砦へ向かおう。王と王妃を捕らえに行く。」
「明日でも良いんじゃないか?さっき色々終わったばっかだし。」
アルス達は少しばかり疲弊していた。
「いや、今すぐでないと遅い。恐らく王が砦の人間に急かして周辺国へ援護要請を出す。誤れば革命は失敗に終わるだろう。だから今から行くんだ。」
「屋敷は大丈夫なのか?」
「問題ない。幸い被害は少ないからね。自立魔道式人形に修復を任せるから屋敷については問題ない。僕たちが今すべきことは、王と王妃を見つけて捕虜にすることだよ。まずはあの二人を捕まえないと、ヤンドールが無駄死したことになってしまう。」
「それは、嫌です!」
「体調が心配ならここに留まってもいい。あの二人を捕えるだけなら僕とナオミで問題ないからね。」
リンダはガレット、ガリント、アルスのことを心配していた。
「新しい芽を摘むわけにはいかないからね。で、どうする?三人は。」
「私は、行きたい。王城の図書室で知ったんだけど多分王と王妃は操られてる。」
「操られてる?どういうことだ?」
「王族が、王と王妃が狂った原因は確か今の宰相の一族。wの人たち。世界征服を目論む強欲な一族よ。本心から税金を重くしたり、聖なる選別を違う意味で使っているわけじゃないと思う。洗脳されて無理やりやらされていたのなら、放っておけない。」
「マーガレットが行くなら、俺も行く。」
「ガレットとガリントが行くなら、俺も行く。」
「よし、じゃあ皆んな。行く、」
「お待ちください!」
扉からロイスが入ってきた。
「俺も、連れて行ってくださいませんか?リンダ殿。」
「良いけど、皇太子殿下は?」
「あのお二人は大丈夫です。反国王派の家臣達に任せてきました。西の砦なら、俺の知り合いがいます。恐らく力になってくれるでしょう。」
「確かに、味方は欲しいな。よし、良いだろう。じゃあ、向かうよ。」