第二章 19話 愚かへ報復
「ヤンドール、さん。」
喉から嗚咽のような声が出た。
「私と、ガリントのことを思って、離して、」
自分たちのことを守ってくれていた。
(村が焼かれることを知って、どんなに苦しかったか。止められなかった絶望を私は知らない。私とは違う苦しみを、あの人は味わった。多分自分のせいで死んだって思ってるだろうけどそれは違う。国のせいだ。国のせいで村の皆んなは死んだ。絶対、王と王妃を探し出す。そしてwの一族を、)
潰す
その頃 国王派の人間が入っている部屋ではロイスとガリントが報復をしていた。
「重臣といえど、所詮はただのジジイなんだな。アンタら。」
「クソ、西方の軍は?ウェスタードの連中は何をしている!」
「他国援軍を期待しているのですか。酷いですね。聖なる騎士団に期待してください。無論、無理ですけどね。」
団長のロイスが捕虜となり、実質的な指揮は失われた。王であるイガランドは西の砦へ避難。聖なる騎士団は動かないのだ。
「ガリント殿。彼らも一応戦闘訓練は受けているので鈍ではありませんよ。」
「ふざけるなよ!聖なる騎士団の分際で、忠臣である我ら」
「自分で忠臣というんだな。なら、なぜ王を迎えに行かない。なぜ今このシャーロズ邸にいる。本物の忠臣は、上司である王を迎えに行くだろう。それをやらないあなた方はただの愚臣だ。阿保が。」
ガリントは老臣の腹を蹴った。本当は舌を切り落としたいところであったが殺すのは御法度であったため抑えていた。
「野良風情が、運良く生き残っただけの餓鬼が革命なんて認めないぞ!」
「聖なる選別を都合のいいように解釈してるヤロウに何言われても響かねえよ。お前らは温室育ちで挫折したことがないんだろうなぁ。周りにあれよあれよという間に煽てられ、その地位にいるんだろう?苦労もせずにのうのうと、できることといえば媚を売ることくらいか?そんなこと赤子でもできる。俺はな、テメェらとは違って10年“独り”で生きてきたんだ。誰にも頼らず甘えずの生活をしたことがない子供みたいなお前らに、侮辱される理由がない。残念だったな。俺が野良で。」
その言葉は冷たく鋭く、老臣の心に刺さった。
「他の連中にも言っておくが、この革命は成功する。黒幕も叩く。以前のような栄光は味わえないと思っておけ。本当に反省してるなら、個人でリンダに言え。でなければ今後、奴隷になるか家財全て押収した上で一文なしの追放。最下位の役職から働くことのどれかになるからそのつもりで。ま、傲慢なお前らのことだから本当の意味で反省してる奴なんかいないと思うがな。今更気づいたヤツもいるだろうが、遅すぎる。」
紅掛の目が周囲の老臣を恐怖に陥れた。今から何をしても自分には滅びの道しか待っていないのだから。
(ガリント殿が独りで過ごされた時間は、とてつもなく長かったのだろうな。俺じゃ計り知れないくらい、長い道が。)
「マーガレットの体調が心配だ。俺はマーガレットのところへ行く。あとは頼んだ。」
「分かりました。」
ガリントは部屋を後にした。
(鍛え甲斐がある適性者の姉と、自己鍛錬を積んで経験がある弟。どちらにせよ規格外なことには違いないか。怒らせない方が身のためだな。これは。)
ガリントはガレットがいる部屋の前に着き、扉を叩いた。
「マーガレット。俺だ。入っていいか?」
「どうぞ。」
寝台の縁へ手招きされたので隣へ座った。
「ガリントさ、ヤンドールさんがあの孤城に自分を預けたこと知ってる?」
「.....何でそんなこと聞くんだ。」
「知ってたんだね。その言い方は。」
「...昔、孤城にいたジィさんに誰が自分をここに預けたのか聞いたことがある。陽光の如き長髪を一つ結びに萌葱色の目の人間。見た目がヤンドールそのものだった。それ以外にも、赤子の頃の記憶で首に刺青がしてあった。ヤンドールも同じ刺青をいれていたからな。」
「刺青?」
「鬼百合の刺青、紅のインクの鬼百合だ。」
(ヤンドールさん普段髪の毛下ろしてたから見た事なかったな。)
「ヤンドールがあれほど強いのに旧友であるジイさんが魔法が使えないのがあまりにも違和感だったがな。」
魔人は自分と同等の魔力を持つ人間と引き合うとされている。
「ガリントのこと見てくれてた人は、魔力はあったの?聞いた話にだと魔力を持っていても魔法が使えない人がいるらしいけど。」
「魔力は確かにあった。」
「なら何で魔法が使えなかったの?」
「...誰かに魔法を禁ずる呪いをかけられたらしい。」
「呪い?」
「ヤンドールが生まれたあと、何らかが原因で魔法が使えなくなったらしい。」
「そんなことあるの?後天的に魔法が使えなくなるなんて、」
「あるらしい。俺は革命が無事に成し遂げられたらジィさんに呪いをかけた人間を探しに行くから少し空ける。」
「分かった。」