第二章 18話 一段落
「みんなが無事で良かった。僕は屋敷の損傷を把握しなければならないから少し席を外すよ。」
リンダは一旦その場を離れた。
「マーガレット殿。」
ロイスが穴が空いた来賓室の壁から出てきた。
「ロイスさん!無事だったんですか。」
「ロイスで結構です。マーガレット殿。実はヤンドール殿から書を預かっています。マーガレット殿へと。」
懐から一通の手紙を出して、手渡した。
「俺は国王派の家臣達を叩きにいってきます。」
「皇太子兄弟はどこに?」
「アルス卿。あのお二人は反国王派の方々に面倒を見てもらっています。反国王派の方々は王を恨んではいますが皇太子は恨んでいませんからね。」
「俺も、言って良いか?国王派の老害どもをシバきたい。」
「いいですよ。ガリント殿。殺すのは御法度ですからね。」
「分かってる。死なない程度に殺す。」
ロイスとガリントは国王派の人間がいる部屋へ向かった。
「自律式魔導人形!起きろ!って、無理だよなぁ。」
「アルス、私に任せて。悪には平等な裁きを 善には平等な福音を 神の裁判と慈悲。」
自律式魔導人形の骸が宙に舞い、光を放った。
「何だ?」
「お願い、成功して!」
少しの間、骸は輝き続けた。
「目を覚ませ。自律式魔導人形!」
輝きは徐々に消え、まだ瓦礫が散乱している床の上に自律式魔導人形が立った。
「おい嘘だろ...」
自律式魔導人形達は徐々に目を覚ました。
「あれ、私たち、バラバラに、」
「良かった...成功したみたいね。」
「何の、魔法だ?これは。」
「リンダさんに教えてもらった女神の御技。過去に双子が爪弾きにされる理由になった双子が使っていた技だよ。不遇だけどね。」
「なんか天秤もあったような気がするんだが?」
「天秤は平等の象徴みたいなものだからね。善にも悪にも平等にっていう意味だと思う。」
「凄いな。というか自律式魔導人形にまで作用するものなんだな。」
「らしいよ。自律式魔導人形と言えど、屋敷に使える召使いなわけだから。人として扱うのは当然でしょう。」
「そう、だな。」
自律式魔導人形が2人に近寄ってきた。
「ガレット様〜!」
「皆んな、無事?」
「はい!ガレット様のおかげで無事に復活することができました!」
「良かった、」
「来賓室の片付けは我々がやるのでお二人は休んでください。」
「イザベルの皇太子兄弟の安否確認が終わったらそうさせてもらうわ。ありがとう。皆んな怪我には気をつけて。」
「ご配慮賜り誠にありがとうございます。」
2人はその後来賓室を出てイザベルの元へ向かった。
「解除」
イザベル達は徐々に体を起こし始めた。
「イザベルさん。ここは任せて良いですか?」
「はい。お任せください。」
「そう言えば先程イザベルの母が心配していた。片付いたら会いにいってやれ。」
「ありがとう、ございます。」
次にアルスとガレットは反国王派と皇太子兄弟がいる地下室へ向かった。侯爵本邸の地下室は王城の隠し部屋・地下室とは違い、空気が温かくとても住みやすい場所で、人が生活する上で必要な品が揃っている。
「ルイ殿下。」
「マーガレット殿!」
「マーガレットで結構ですよ。殿下。」
「そんな、救ってもらったのだからこれくらいは当然だ!」
「では好きな時に呼び捨てにしてください。リアヌ殿下もご無事でしたか?」
奥からリアヌを抱いた小綺麗な服を着た老人が出てきた。
「殿下はご無事です。疲れて今は眠ってらっしゃいます。」
「良かった...」
「あの、我々はこれからどうなるのでしょうか。」
「王と王妃を見つけ次第追放する。あなた方には復旧作業を手伝ってもらいたい。」
「それだけで、よろしいのですか?」
「あぁ。別に皆殺しにするつもりは最初からないからな。そして、皇太子兄弟の後見人も頼みたい。」
「承知いたしました。では他の者にもそう伝えておきます。」
「頼んだ。」
小綺麗な老人はルイにリアヌを預けて奥にいる他の反国王派の人間に伝えにいった。
「ねぇアルス。休憩室みたいな部屋ってどこだったっけ?」
「確か1階の勝手口、いやあそこは使用人専用だからダメだな。3階にあるお前が使っていた部屋に行こう。」
「分かった。」
エアリオス王国 西の砦にて
ヤンドールとガレットが戦っている時、王と王妃は西の砦へ着いていた。
「陛下、よくぞご無事で...」
「宰相に西の砦なら安全だと聞いた。こちらは今どうなっている。」
「数百の兵で守っています。ゴロツキどもではなく、正規の兵士を雇いましたのでご安心を。ウェスタード王国を始めとした西方の国々に援助を呼びかけました。そのうちリーシェリウス帝国のトワイライト大将軍も援護に来るでしょう。明日には大勢の援軍が来ます。ご安心ください。」
「明日では遅すぎる、今日あと4時間、いや1時間でいくら集まる?」
王の目は既に狂っていた。
「まだ呼びかけの段階でございます陛下。最低でも3日ありませんと、」
「金でも女でも好きなだけくれてやる、この国を守るためだ。期限は本日の未の刻までに出せと伝えろ分かったな!」
「そんな、無理です陛下!」
「貴様生意気だぞ!王である俺の言葉が聞けぬというのか!」
これを乱心以外の何と言い表すのだろうか。
「申し訳ございません陛下!善処致しますのでどうかお気を静めてください。」
「分かったならそれで良い。俺とフィーランは休む。何かあったら言え。」
「承知いたしました陛下。」
王と王妃は部屋を出た。
(相変わらず傲慢な王と王妃には反吐が出る。革命の成功は確実。あの王と王妃はそれなりの処罰が降るだろう。そうなれば、逃げるしかまるまいな。)
西の砦の人間は慌ただしく準備したのであった。
シャーロズ侯爵家本邸3階にて
「確かこの部屋がガレットが使っていた部屋だ。」
幼い時に過ごしていた部屋。少し埃っぽいが寝るには困らない。
「懐かしい...あの日のままだ。」
「俺は隣の部屋にいる。何かあったら声をかけろ。」
アルスは部屋を出た。
(そういえばヤンドールさんの手紙、)
懐に入れていた手紙を出した。
(何が書いてあるんだろう。)
ーーーーーーーーー
ガレットへ
この手紙を読んでいるということはそういうことなんだな。でも、僕が死ぬことは最初から決められたことだから。
「え?」
今驚いたでしょ。分かってるからね。ガレットのことは昔から何でも知ってるから。さて、前置きが長くなる気がするからもう本題に入るよ。まずは、『呪い』の話だね。君にかけられた『呪い』。それは、“双子の呪い”。
「双子の、呪い?私とガリントの間に呪いなんて、」
“呪い”なんて言い方はあまりしたくないんだけど、ね。2人が双子だったから大変な目にあった。だからこれは“呪い”と言って良いだろう。双子の魂は最初は一つだった。二人で一つ。魂を分割するのは大変だったさ。でもできた。この行いが君たち二人にとって良いことなのか、それは分からない。でも僕は、魂を割った程度で君たちが壊れてしまうほど柔くないって思うよ。君たちの絆は、魂のつながりは最強だから。魂が分裂しても、家族だから。きっと大丈夫。
僕がいなくても、君なら大丈夫。
あと、一つ言っておくことがある。ガリントにも言っておいてほしい。あの日、ガリントを村から連れ出して孤城に預けたのは実は僕なんだ。
「ヤンドールさんが、ガリントをあの孤城に、」
知らなかった、事実。
君たちが産まれた瞬間、これから起こる未来を見たんだ。wの一族を止める未来を。終止符を打つ未来を僕は見た。その未来と共に、村が焼かれることも知った。だからガリントを孤城に預けた。でも村は焼かれた。辛うじて君は屋根裏にいたから助けることができた。本当にごめん。僕なら助けることができたのに。
「何で、村が焼かれるって分かってたの?」
気になっていた。
村が焼かれることは僕の聖なる称号、全てを知る者の能力。この能力は未来を見通す能力なんだ。僕が君の前から姿を消すことも、知っていた。君の両親、サーレット、ナユレット、村の人が皆んなあの日亡くなるのは知っていた。知っていたのに助けられなかった。あの村を聖なる選別から救うのは無理だった。本当にごめん。これから、幸せになって。何かあったら、封筒の中に入っているネックレスに念じてーーーーーと言って。そうしたら、僕は出てくるから。愛してるよ。
君にとって親愛なる師匠 ヤンドールより